■予感と決断
昨日の晩、用事を長引かせてしまったのは失態だった。宿主様の睡眠時間がまるで無い。
正直、普段なら宿主の睡眠時間なんてどうでも良いのだが、今回は完全に構想通りに行動出来なかった事がこの結果をもたらした。反省の意も兼ねて宿主の代わりに学校へと足を運んだ。
最初は難なく愛想を振りまいて演じていたが、だんだん作り笑いにも疲れ、昼休み開始の鐘が鳴ると逃げるように屋上へやってきた。
迎えてくれたのは青空とそよ風。表情筋から力を抜くと座り込んでため息をついた。
「屋上は基本的に立ち入り禁止だぜ。知らなかったか?」
せっかく一人になれたと思ったのに……作るまでもなく不機嫌面になった表情を隠さずに振り返った。予想通りの人物が偉そうな態度で立っていた。
「知ってるぜ。鍵がかかってたからな」
「不法侵入だぜ」
「…………お前が言うか?」
侵入後、間違いなく屋上の鍵を閉めた。他の人間が来ると厄介だ。それなのに他の人間が来てしまった。まあ、
演技するまでもない存在だったのが唯一の救い。
「昼飯は?」
「一日一食で十分だ」
言い放つと遊戯は手に持っていたものをこちらに投げてきた。片手で受け取って現物を確認すると、焼きそばパンだった。
「獏良くんは昼飯を食べているぜ。お前には食べる義務がある」
「……」
嫌そうに遊戯を睨んでみたが、引き返すどころか遊戯は近づいてきてあろうことか隣に腰をおろした。
「何だよ」
「何でもないぜ。気にするな」
遊戯は自分の分としか買ってきてパンの袋を開けて昼食を取りはじめた。
「なあバクラ」
「……何だ」
遠慮する理由は無いので、焼きそばパンを頂戴する事にする。
遊戯は焼きそばパンの袋を開けて一口運ぶ間沈黙して、ようやく口を開いた。
「まだ、ゴールは決まってないよな」
「…………」
遊戯の片手はパズルに触れている。「ゴール」などと曖昧な表現をしてきたが、何を差しているかは一目瞭然だ
った。
「……何故、オレ様に聞く?」
「さあな……お前も似たような事考えてるかと思った……何となくだけどな」
恐らく問いかけに答えてもらう為に口にしたわけじゃないのだろう。ただ、口に出したかっただけか。
「…………」
そんな事、答えてられるわけがない。
むしろ……聞きたい立場だ。
「あんたはどう思うんだよ王様」
「オレ?オレは…」
答えは決まっていると言わんばかりの自信ある表情。
「自分次第だと思ってるぜ」
「極論だな」
お互い、自分自身が結論を出す時は遠く無い。
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