■夢の中の闇
最近おかしな夢ばかり見る。
場所は決まって闇の中。真っ暗で明かり一つありはしない。それなのに自分の姿だけはハッキリと見えている非科学的状況。その闇の中をひたすら歩き続ける。
暗闇はあまり好きにはなれない。閉鎖的で、光の届かない場所・・・嫌な思い出しかない。少し恐怖しながら何を目指しているかもわからない状態で歩き続ける。これが、夢である認識はある。そして目的も最近わかってきた。
冷たい暗闇に一箇所、暖かい場所を発見するのだ。そうすれば目が覚める。
きっとそこがこの夢の正体を解く鍵だと推測できる。
もしかしたら人為的なものかもしれない。この状況を『非科学的』と位置づけていながらそんな考えが浮ぶのは非科学的事柄を実現できる古代のアイテムを知っているからだ。
一度正体を知ろうと思うと、そこからはもうスムーズに結論へ辿り着く事が出来た。この導き出した答えが合っているか確認する為、その場所を探し続けた。
そう、あの暖かい闇は知っている。知っているのに何故今まで気付かなかったんだろう。
「・・・バクラ」
立ち止まり呟く。それはまるで呪文のように闇へ変化をもたらした。
歪み、徐々に光を帯びて闇色と異なる色が出現し始める。光と言ってもそれほどの輝きは無い。色が認識出来る程度のものだ。この夢の中にいるときの自分の体のように。
はっきりとした色が出現するとそれが人の形をしている事が確認できた。見覚えのある姿。
見覚えのある姿は聞き覚えのある声を発した。
「ようやく気付いたか。お前も案外鈍いんだなぁ」
うやむやに別れてからどれくらい経っただろうか。その勝ち誇ったような笑みが懐かしい。
「バクラに辿り着いたら目が覚めるんだよ・・・起きると記憶が曖昧になるんだ」
「所詮オレ様はその程度って事だろ」
バクラの意図やこれまでの流れなどをまとめながらの会話だったが、その言葉で全てが吹き飛んでしまった。
「っそんなわけないだろ!」
思わず声を荒げてしまった。これには少しバクラも目を丸くする。しかしいつもの笑みに戻すといつもの口調で話してくる。
「そうかい。まぁどちらにしろ悪夢には違いないだろ?お前の嫌いな暗闇しかない夢だ。それを見せていたのはオレ様」
そのオレを憎めと言わんばかりの言動は違和感を感じさせた。そんな違和感に脳が無意識にヒントを出す。ヒントと感じたのも脳なのだが、不意に浮んだ言葉。飛ぶ鳥後を濁さず。
バクラはきっと消えてしまう。そう思った。その不安定な存在がついてバランスを崩す時が来たのだと。そう思った。
これはバクラが与えたテストだ。夢の中でその夢の理由を探ろうとするか否か。そして夢の違和感に辿り着けるか否か。さらにその違和感の正体を見抜けるか否か。ここまではクリアした。
きっとこれが最終段階。道を一つ選ばなければいけない。なら自分の貫きたい意志を貫くまで。バクラがこれを望んでるとは限らない。むしろ望んでないかもしれないけれど。
「ボクは、バクラが好きだよ」
闇に同化しても消えない想い。
「・・・大好きだよ。いつまでも」
生きる場所すら違う存在だったとしても。
「愛してる」
これだけは揺るがない。
バクラは言葉を失っていた。複数の結果を予測していた中でこのような展開はなかったのだろうか。
「・・・とんだ大馬鹿者だなお前は・・・茨の道を進むのか?」
「バクラがいるなら、進むよ」
バクラの笑みが変化した。含みのある笑いではなく、自然に零れる笑み。
「・・・馬鹿は一人でいいのにな・・・・・・好きだぜ、マリク」
柔らかい口付けを落とされる。最後の、口付け。
バクラの体が歪んだ。現れた時の逆再生のように、闇へと消え去っていく。
完全に闇へと同化してしまうと、暖かさごと消えて普通の闇しかなくなってしまった。
その後、非科学的な闇の夢を見る事は無い。あとはいままでと変わらない日々が続いていた。
他に変わった事といえば、闇を恐れなくなった事。
もしかしたら、どこかに暖かい闇が紛れているかもしれない。心掴んで放さない暖かな闇が───
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