seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■寝不足と三半規管


確かに世間様はのびのびと優雅に行動を始めるだろう休日の午前中。
訪問者もその一人だった。


「城之内君はアルバイト、海馬は仕事。杏子や本田君が話についてきれくれるか分からない。獏良君ならどうだろうと思ってやってきたら残念な事にお前がいた」


部屋にあげると……いや、部屋に勝手に入って勝手に持参した荷物を引っ張り出しながら遊戯は何かをほざいている。

こちら側の状況とすれば、徹夜明けの宿主様が流石にうつらうつらしていたから入れ替わり、シャワーを浴びてさあ寝るか……そんな時に部屋のチャイムが鳴った。
何故応えてしまったのだろう……まだ生乾きの髪をかき上げ後悔する。

脳全体が心臓になったかのように、ズキズキと鼓動する睡眠不足の頭。注意散漫、後悔先に立たず。


「相棒が部屋の整理をしてたら出てきた。一人でやるのもつまらないからな」

「……その相棒とやればいいだろう……帰れ」


怒鳴る気にもならずぼそぼそ呟くが相手はまったく聞く耳持たない。
自分の家感覚でゲーム機を引っ張り出して持参したソフトを起動させた。
一世代前の懐かしいサウンドでほんの少しだけ脳が覚醒する。

テレビに目をやれば、宿主様が小さな頃やっていたゲームの一つであった。実際にプレイをしたわけではないが勝手はわかっている。
遊戯の方は勝手がわかっていないらしく、ものめずらしそうに画面を見ている。


「なるほど……全方向に移動出来るのか……」

「出始めの頃のだな……当時はすげぇ映像だと思ったがよ……どこぞの社長様のシステムに敵うモンはねぇだろうな」


なんとなく、遊戯が操作を始めたテレビを観察する。
操作に慣れるためにスティックをあらゆる方向にぐるぐると回し、把握すると面白がって前後左右行ったり来たり。
最初の思考は先の会話に出たシステムと画面の比較。そして支離滅裂な動きをする主人公。
眠い頭と弱った体。目まぐるしく変わる視点、揺れる背景……


「……バクラ?どうかしたか?」


妙に冴えた直感で遊戯が訊ねて来た。相変わらず主人公はぐるぐるとその場を回転して遊んでいる。


「……酔った……」

「何?」

「気持ち悪……」


理解出来ていない遊戯を放っておいてソファにうつ伏せになり目を瞑る。
何も映ってないのに視界がぐにゃぐにゃと揺れる。寝不足で頭痛が追い打ちをかける。

なんとか落ち着かせ仰向けになり横を見る。主人公は静止している。コントローラーが誰にも握られていないからだ。


「いかにも不健康な顔をしているぜバクラ」

「クク……だろうな……」


お前のせいだと噛み付こうかと思ったが、眉を寄せて心配そうな素振りはしていたので力が抜けた。怒鳴る余裕もない。
正直、3D酔いは収まり、主に寝不足による体調不良なのだが黙っておく。


「……ベッドの方がいいんじゃないのか?」

「あー?客人放置して寝室に移動できっかよ……何されるか心配で眠れねぇ……っ!」


寝不足で頭が回らないときに突発的な行動は控えて欲しい。突然の口付けに思う。


「いきなりなんだ……」

「風邪は口移しで治るってきいたぜ」

「風邪じゃねぇよ……あーくそ……っ……もう寝る」


頭が回転しない時にあれこれ考えるものじゃない。しっかり睡眠をとった頭でいろいろ考えることにしよう。

怒りと後悔しかなさそうだが……


「バクラ……?」


遊戯の声を耳に、意識は何の問題も無く睡眠状態へ向かった。



目覚めた後、怒りも後悔も増幅した結果が待っていたのは、また別の話。



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