■過去の面影
見た目は借り物だから仕方が無いのだろうけれども、それ以上に行動すら一つの事実を信用できないものに仕上げているのではないだろうか。マリクは思わず呟く。
「お前は本当に盗賊なのか……?」
言葉を投げかけた相手は、長い髪を乱暴に一つにまとめ邪魔にならないようにだけすればいいと言った感じで高いところに結い、先ほどコンビニエンスストアで購入したスナック菓子を食べながら同じく購入した雑誌を読んでいる自称盗賊だ。
もうこの状況だけで盗賊である事が信用できたものじゃないだろう。
自称盗賊はスナックを食べていた指をペロリと舐めながら半眼でこちらを見てきた。
「いきなりなんだよ……オレ様は盗賊じゃねーぜ?盗賊王だ」
「胡散臭い……」
ジトリと睨んでやる。自称盗賊王は立ち上がりひらひらと軽くあしらう様に力なく手を振った。
「信用ねぇよなぁ……まあざっとこんなもんだけどよ」
雑誌を閉じる手には、先ほどまで無かった、見慣れたものが握られていて。
きっと現在まさに目を丸くしている状態の表情になっているだろう。至極驚いた。
「っ!ボクの財布……」
「元総帥様は大層金持ちなんだろうなぁ……」
財布が開かれる寸前。慌てて奪い返すと抱き締めるように財布を庇う。
別に見られて困るものがあるわけではないが盗られては困るのだ。
「おー?元総帥様のクセに随分ケチだなぁ?」
「ケチとかそういう問題じゃないだろう!それにこれは盗賊じゃなくて掏りだ!」
最低だ。人をおちょくりからかって、まるでおもちゃのように振り回す。盗賊王だか何だか知らないがこんな人間がこの世に蔓延っていていいのか。
「最低だと思うなら何で人の家に滞在しているんですかねぇマリク様ぁ?」
「!」
読まれた。心を。いや、表情をだろうか。
何故滞在してるか?何故バクラの傍にいるのか?
「っ……それは……そんなの……」
「マリクはオレ様が大好きで仕方ないんだよなー?」
先生が園児に目線を合わせて話しかけるように。
子供だよ。どうせ子供。所詮経験も技術もバクラには適わない。
「…………そうだよ……大好きだよ……っお前はどうなんだよ!」
子供のような発言だ。自己嫌悪。吐き出すような言葉にもバクラの表情は余裕。切羽詰ったこちらの表情が馬鹿みたいに。
「オレ様かぁ?さぁな……どう思うよ?」
宥める様なキス。本音を隠しているのか甘やかしているのか。
そちらがその気なら別にいい。
否定しないなら甘え続けてやる。這ってでも傍にいてやる。
本音を聞きだす、その瞬間まで。
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