■夏とアイスと赤い舌
勝手に押しかけてきて勝手に持参したアイスを勝手に食べている客人とも呼べない男はまるで自分の家のようにソファに座り悠々寛いでいた。
夏、冷房をつけても冷えてくれない部屋、アイス。
「・・・欲しいのか?」
遊戯はニヤリと笑った。
きっと暑さにやられていた。オレは頷いてしまったのだ。
「条件。手を使わない。噛まずに舐める。アイスは俺が持つ」
スッと差し出された棒アイス。オレは言われるがままアイスを舐める。
聞こえるのは蝉の鳴き声、時計の針が進む音。アイスを舐める水音。
暑く湿気が多い空気は何か艶かしい色へ移り変わり気を狂わせる。
「・・・俺の負けだ、バクラ。そいつはやつ」
「何の勝負だよ・・・まあ折角だからありがたくいただいてやるぜ」
アイスを持ち背を向ける。熱い口の中で溶けるアイス。
あいつの負けじゃない。引き分けだ。
これ以上は望めない。同じ部屋、背中合わせ。この距離感を保つことが互いの運命。
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