■てるてるぼうずが呼ぶ太陽
その顔はどこからどう見ても不機嫌で、不機嫌というよりは拗ねているというべきか。
眉間に皺なんか寄せて頬を膨らませるなんて子供のような拗ね方はとても可愛らしかった。
そんな事を言えば更に期限を損ねる事間違いないので口にはしない。ついでに突きたくてしょうがない頬を突くのも自粛する。
「そんなに拗ねるなよ・・・別に今日じゃなくたっていいだろ」
可愛い膨れっ面は窓の外からこちらにう視線を移した。
こんなやりとりをしていては、まずでこちらが原因かのような印象を受けてしまうが、断じて違う。
「だって折角バクラ苦手な早起きしたのに・・・」
マリクは怒っている膨れっ面から悲しんでいる膨れっ面へと表情を変化させた。これで怒りの矛先がこちらではない事が証明されただろう。誰にされたかは不明だが。
「朝が苦手っつーよりは夜遅くまで起きてるってだけだし・・・天気予報士だって人間なんだから仕方ねぇだろ」
耳をすませば聞えてくる雨音。つまり聞えるほどの雨が大地を潤し続けているというわけである。
昨日の時点で降水確率は20%。念には念をとどこでそんなもの覚えてきたんだろうとおもえるマリク作・てるてるぼうずが外を見て、たそがれていた。 今日、マリクと二人でピクニックに行く予定だった。そして雨だった。それだけでもう9割この膨れっ面が理解できるだろう。
事の発端は数日前別に見たいとも思わなかったが付けっぱなしになってたテレビから流れ始めたドラマを夕飯を食いながら見ていたことにある。サスペンスやホ ラーならそれなりに食いつくのだが、あまりに平和な内容すぎてストーリーを一切覚えていない始末なのだが、マリクにとっては興味をそそるものだったらし く。
しかしこいつの知識は偏りすぎていて何を知ってて何を知らないのだか見当もつかない。流石に『ピクニックって何?』と聞かれた時には何を聞かれたんだか逆に理解に苦しんだ。
ドラマをみれば親子がピクニックしてる平和すぎて欠伸がでるシーンで、『てるてるぼうずのおかげで晴天だね!』なんて話をしていた。ああ、このときマリクもてるてるぼうずを覚えたのか。前日に子供が作るシーンでもあったのだろう。全然見ていなかったが。
簡単にピクニックの意味を説明してやった後は簡単だ。羨ましそうにテレビをみてボクも行ってみたいなぁなんてオーラ発している可愛い子猫にかける言葉は一つしかない。
だが結果はこれだ。所詮出来たシナリオと現実じゃあ同じように進むはずがない。進むのだったらこの世界はとっくに邪神によって支配されている。 マリクは本当に残念そうな顔で俯いて呟いた。
「雨自体は好きなんだけどね・・・あーあ・・・がっかりだなぁ・・・折角バクラとデート出来ると思ったのに・・・」
「・・・・・・・デート?」
それはまるで予想していない言葉だった。
「・・・だって・・・バクラと一緒に外出ってあんまりなかっただろ・・・?だから・・・」
それは確かに・・・そうかもしれない。そもそもデートなんて単語が頭を過ぎる事すらなかった。ただこいつの思考だったらそういう類のものに憧れてもおかしくはないだろう。
「・・・お前はピクニックじゃなくてデートがしたいだけか?」
「ん・・・ピクニックも興味あったけど・・・どちらかというとそう・・・」
弁当箱のふたを開けてしまう。弁当を作るのはなかなか楽しかったが肉を入れないメニューには梃子摺った。
おにぎりを一つ手に取り食べる。雨がやむ気配はまったくない。ふと時計を見る。何だかんだと文句を言っているうちにもう昼時だ。
そういえば宿主が新作のホラー映画の話で盛り上がっていたのを思い出す。たまには映画館に足を運ぶのも悪くはないか・・・
「じゃあするか?デート」
ようやくおかか昆布までたどり着いた口を休めてマリクに言うと驚いた表情を見せた。
「!?え、でも雨・・・」
「何もピクニックばかりがデートじゃないだろ。普通デートといえば映画館とか・・・室内で楽しめる場所だって十分すぎるほどある」
普通のデートなんて知る由も無い。室内のデートスポットが映画館の他にはホテルしか浮かばなかったが、まぁマリクよりは知ってる自信がある。
マリクはこちらの言葉をゆっくりゆっくりしているようで、徐々に徐々に表情が明るくなっていく。なかなか面白い。
「そ、そっか・・・雨でもデート出来るんだ・・・」
「出来る出来る。沢山できるぜ」
ますます表情が明るくなる。本当に面白いな。
「じゃあ行く!お弁当食べたら出発?」
「そうだな。家で手作り弁当ってのも・・・まあたまにはいいんじゃねぇか?」
「そうだね!いただきます!」
元気良く言っておにぎり一つを嬉しそうに頬張った姿は太陽なんかよりずっと眩しく見えた。とはとてもじゃないが本人に直接言えない。
午前中だけでいろんな表情が見れた。きっと午後も違う表情が見れるだろう。ホラーに怯える姿なんかが本命である。
普段天候なんてまったく気にしていなかったが。これほどまでにいろんな表情を見せてくれたのは紛れもなく恵みの雨が生み出した産物。
今日だけは感謝してやらなくもない。 |