■先往く者
きっと、求める隙すら与えなかったのだろう。
それが一体自分の為なのか相手の為なのかはわからない。
とにかく、どんなときもあいつは不自由を与えなかった。
気が付くということもしなかった。それが当たり前だったから。
ふと見ると奴はいた。邪魔だと追い払いたくなる事が常であったが。
邪魔だと思わない日も、奴は傍にいた。
こちらの行動などお見通しだといわんばかりの余裕が気に食わなかった。
だがたまに、その余裕に感謝するときもあった。
隙間が出来れば容赦なく埋めてくる。
その隙間が自分でも気付かないような小さなものでも。
奴はどんなときも一歩先にいた。
そして先導し支えていた。だが気付かなかった。そんな考えを持つこともなかった。
そして奴は先にいきすぎた。
埋めるものがなくどんどん広がる隙間。
当たり前が崩れていく消失感。
どんなときも奴は傍にいた。
だがもういない。
道は二つに分かれてしまった。
違う・・・最初から道は一つ。
奴はもういない。
違う・・・
奴は最初からいなかった。
・・・そう思えたらどんなに楽だっただろう。
奴はあまりにも多くのものを残しすぎた。
そして全て冥界へと持ち運んだ。
ならば、最初から与えなければよかったのに。
奴がいなければこんなに強くはなれなかった。
奴がいなければこんなに脆くはならなかった。
どんなときも奴は先にいる。
ならば、いつか追い越してやる。
そして残される立場を知れ。
次にこの消失感を背負うのは貴様の方だ |