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■タイミング
ああうぜぇもう電話してくんな! ……と言われて乱暴に電話を切られて数週間。本当に電話をしていない。勿論そんな言葉を真に受けるわけがなく、ただタイミング良く街の仕事が忙しくなっただけで、時間が出来ればまた怒られて電話を切られるまで話し続けたい。
「鬼柳さーん! ちょっとこっちも行き詰ってるんで顔出してくださいー」
「おーう、今行くー」
必要とされる事は有難い。クロウと連絡を取れない一点を覗けば特に不満は無く、むしろ忙しい日々は楽しい。
この現場も一段落付いたので小さく溜息を付き、ペットボトルの水を口に含んだ。
「鬼柳さーん。こっちにも少し意見くださーい」
「んぁ…………んっ!?」
適当に相槌打って返答しようと声を掛けた人物を横目で見た瞬間、口から水を噴射してしまった。幸い被害者はいない。
「きったねぇなオイ……まあ、元気そうで良かったけどよ」
声を掛けてきたのは街の人間ではなかった。何故ここにいるのかは理解できないが見間違えるはずもなく。
驚きと喜びで声が震えた。
「クロウ!? 何でお前いるんだよ!」
「あのなぁ……あんな電話が最後じゃ、後味悪いだろうが……落ち込んで引きこもってるのかと思ったぜ」
半眼で唇を尖らせながらぶつぶつとクロウがぼやく。それって、それってつまり……
「クロウ……オレの事心配して……やべ、泣ける。感動で」
「ふざけた事言ってねぇでさっさと仕事しろよ救世主」
邪魔すんの悪いから帰るわ、とひらひら手を振りながら立ち去るクロウの背中に慌てて声を掛ける。
「クロウ! 時間できたら……こっちから会いに行っていいか?」
クロウは立ち止まり、顔だけ振り向くと、微笑を作って見せた。
「どーせ否定しても来るんだろ?」
「……わかってらっしゃる」
手を振りながら、再び歩き出したクロウを見送った。
今回は相当驚いたから、今度会いに行くときはこれ以上の驚きを味わわせてやる……その目標に向けて、今は目の前の仕事を片付ける事にした。
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