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■感情的ベクトルラヴァース
「クロウ、エア恋人になってくれ」
いつものように突拍子もない鬼柳の発言だが、流石に今回は内心穏やかに聞き流すという普段からやっている芸当が出来なかった。
「……何でだよ」
「ジャックがびっくりするかと思って」
本気でそう思っているのだろう。鬼柳は真剣な表情で言った。
こちらの気持ちも知らないで……ため息を付く。
「ジャックの事だ。どうせ適当に『そうか良かったな』って流すぜ?遊星が関係ない事だしな」
「遊星、か……あーあ…遊星かぁ……オレも遊星好きだけどなぁ」
鬼柳もため息を付く。多分、そのため息は先ほど自分が付いたため息と似たような成分をしてるだろう。
「ジャック……遊星かぁ…」
「…………お前は……ジャック、か…」
小さく、呟いてしまって慌てた。しかし鬼柳の耳には届かなかったようで安心する。
「ん?何か言ったか?」
「何も言ってねぇよ気のせいじゃないか?」
もう一度ため息を付いて自分を押さえ込んだ。
この一方通行を打ち壊して無理矢理こっちに矢印を向けさせようと機会を窺っている自分を。
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