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■呼び名
「随分とこの街は変わりましたね。これも先生のお力でしょうか?」
名称すらも変わった、過去身を置いていた街を見渡しても、記憶のそれと同じ場所とは、にわかに信じられなかった。しかし確かに同じ場所にあるわけで、ちらほら見覚えのある人間も見かける事ができる。
「オレはもう先生じゃないぜ」
この街を復興へ導いた中心人物は、この街同様に記憶のそれと同一人物と思えない穏やかな笑顔を浮かべて言った。声のトーンも明るい。
「そうでしたね、町長?」
きっとこれが本質部分で、記憶に残るこの人物が異端だったのだと思うと複雑だ。この人物との記憶の大半が、生きているのか死んでいるのかもわからない生気の無い目をしていたのだから。
「……」
そんな目など出来るのかすら疑いたい光の宿った視線を真っ直ぐ向けられているのに気付いて首を傾げた。
「何か?」
「お前、オレの名前を知らないのか?オレが何の肩書きも無かったらなんて呼ぶつもりだ?」
眉を寄せたその表情は、少しふてくされているようにも感じるが……
「『元先生』、とでも呼ばせていただきますよ」
「……お前変わってないな」
頬を膨らませて完全にふてくされているご様子。
これは、記憶の人物と同一人物だと認識する事が当分の課題かもしれない。
「あんたは変わったな……鬼柳京介」
呼ばれた人物はしばし目を丸くした後、満足そうに笑った。
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