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■まつり
多種多様な人の群れに好き勝手な話し声。どこで鳴っているのだかわからない音楽が風に乗ってやってくる……
そう表現すればシティで茶飯事、何を感じる事も無い。むしろどちらかと言えば不快にすら思うが現状は違っていた。
「ジャック、これオレからの奢り」
そういいながらりんご飴を差し出す鬼柳の姿は普段着と呼べるものとはかけ離れていた。肩よりも長いその髪を
一本に結わいて少し高い位置で馬の尻尾のように揺らし、全身を包む衣類は所謂『浴衣』だ。
多種多様な人の群れは本日限定のもの、聞こえてくる音楽は笛の音、太鼓の音……ついでにいえば現在地周辺は屋台が並び、宙には小さな提灯飾りが綺麗に吊るされていた……本日、サティスファクションタウンは祭りの日。
「しかし街の雰囲気に似つかわしくない種の祭りだな……何故やろうとした」
自分の分のりんご飴に夢中になっていた鬼柳に話しかける。これでもこの街にとっては権力がある。祭りの企画を提案していないにしても、実行許可したのは鬼柳だろう。
鬼柳はきょとんとした後に、至極幸せそうな笑顔を作った。
「だって、楽しいだろ?」
「……そうだな」
そんな理由で街を動かすのかやら、街の雰囲気にあった楽しいことだってあるだろうやら、言いたい事は多々あった。
だが、その幸せそうな表情をゆがませる言葉をぶつける程、落ちぶれては居ない。
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