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■存在
苦痛だとか楽しいだとか、そんな感情はこの行動に対して抱いていない。ただ、生活に必要な行動だという義務に近いものを感じていた。
誰にも言ってなかったのは余計な事を考えさせたくなかったから。サテライト制覇へ向けてだけを考えて貰いたかった……それを行う為の裏方は、自分一人やっていればいい……
「……ぅー……」
「起きたのか? まだ寝ていても良い時間帯だぞ」
目を開けるとジャックの声が聞こえてきた。その声で一気に睡眠前の事を思い出す。そうか、結局寝てしまった……しかも、ジャックの部屋で。
ジャックの口ぶりからそこまでは時間が経っていないようだが、そもそも寝てしまった段階で割りと失態なので気分は優れない……片手で頭を押えながら上半身を起こした。
「あーあ……寝ちまったじゃねぇかどうしてくれんだよ……」
「昼間寝ないように夜きちんと寝るまで見張ってやっても良いが?」
大方予想をつけているにもかかわらず、しれっと言う……ジャックは、やりにくい。優位な場所に立っていても、そのポジションから引きずり落そうとする……ポジション争い勃発。
だからこそ……少し、気が緩んでしまうことがある。
「……それは勘弁」
「ならば隙を見て寝るしかないだろう」
ジャックは寝る前同様にカードをいじっている。その場を動いた様子は無かった。本当に約束を守ってくれてたのか……目を細める。
「……お前はオレをどうしたいんだ?」
「質問の意味が理解できないが」
「……悪ぃ、オレもよくわかんねぇ」
寝るつもりはないが、再びベッドに横になる。
ジャックの存在は不思議だった。こちらに干渉してこないのに、いつの間にか深い所まで入ってきていて……その表現が明らかに矛盾しているのはわかっているが、実際そんな錯覚に落ちている。
理想のリーダー像を演じさせないように、無意識の圧力が掛かっているようにも思えるし、逆にプレッシャーが一切無くて演じる気が失せてしまっているようにも感じる……よくわからないが、自分がジャックを特別な位置に置いているのだけは、何となく感じていた。
「……なぁ、それ……無意識にやってるのか?」
「だから質問の意味がわからない」
「ああ……そうだな。やっぱオレもわかんねぇ……寝足りないのかもな」
ぼやくようにいる言うと、ジャックはオーラのある瞳を真っ直ぐ見据えてきた。綺麗だ。怖くなるほど。
「ならばまだ寝ていろ」
「……不貞寝だ不貞寝」
ジャックから顔を逸らすようにうつ伏せになった。
もしかして、おかしいのはジャックの存在ではなく、ジャックを特殊だと思う自分自身なのかもしれない。
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