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■体格差
出来心だった。理由を聞かれれば、「そこにコートがあったから」としか言えない。
部屋の隅に放置されていたコート。見覚えのあるコートだ……持ち主、ジャック・アトラス。
そして持ち主不在だったので、何を思ったか そのコートを手にとった……そこで出来心が芽生えた。
「…………うわ……」
大体そんな出来心なんてものは、実行した後に後悔すると相場が決まっている……相場通りジャックのコートを羽織って後悔した。肩、腕、胴…と、例をあげるまでも無く全てが、コートに劣っている……コートに着られていた。おかしい。そんなにこの身体は小柄ではないはずだが……
「何をしている」
「どわっ!!」
持ち主は突然戻ってきた。慌てて隠蔽工作する暇も無い……ジャックは怪訝そうにこちらを見ていた。
「こ、これはその……出来心」
「……」
ジャックは腑に落ちない様子だった。だが本当に出来心以外の何物でもないのでこれ以上説明しろと言われても何もない……とりあえずコートを脱ぐ。それをジャックに渡すとその身に羽織っていた。勿論、サイズはぴったり。
「…………お前さぁ、普段何食べてんだ? 何でそんなでかいんだよ……」
「貴様が細いのだろう」
きっぱり言われた。
そう、なのだろうか……いや、そんな事はないはずなのだが……人の平均がどうであれ、ジャックより小さくて細いのは紛れも無い事実。
「あーあ……もっと凛々しい身体になりてぇな……お前見下ろすくらい」
「そうか。なりたいならば一向に構わんが、オレは今の体格差で十分事足りている」
ジャックは素面ですんなり言うと、自然な流れを思わせながらこちらの身体を抱き寄せた。
「!? なっ……」
あまりの出来事に硬直しているこちらの様子などお構いないしに、ジャックは真顔のまま抱きしめた身体を離すと、何事もなかったかのように椅子に座り雑誌に目を通し始めた。
……良いようにあしらわれてないか……こちらに目線を向けていないジャックを軽く睨んでみる。
しかし、あれだけの行動で今の体格のままで良いかと思ってしまった辺り……みくびられて当然の思考回路かもしれない。
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