|
■横に並ぶ為に
このような状態を「舟を漕ぐ」と呼ぶのだろう。ベッドを椅子代わりに座っている鬼柳を見て思った。
カードを眺めている鬼柳は、だんだん重そうな目蓋を閉じ、姿勢維持をしていた筋肉の力が抜けて前に突っ伏しそうになる。そして目蓋を上げて元の状態に戻る……眠そうな目でカードを見つめていた。
「……眠いのならば寝たらどうだ」
「! べ、別に眠くねーよ! 昼間っから寝れるか!」
鬼柳は声を掛けられた事で少し眠気を飛ばし、慌てて首を横に振って否定した。
授業中に教師から指摘されたわけでもあるまいし、通常ならこんな事を否定する理由が無い。
ならば、何か後ろめたい事があるのだと想像出来る。
「…………昨晩も帰りが遅かったと仮定していいか」
「…………」
鬼柳は黙り込んで視線を逸らした。その沈黙は仮定を肯定したと読み取っても間違いではないだろう……小さく溜息を付く。
「ほどほどにしろと警告していたと思うが、聞き入れてもらえなかったようだな」
「一応念頭に置いてる。体調は異常無い」
上の空、眠たそうな声で鬼柳は言った。
自分の発言を振り返った……先の発言は誤った選択だったかもしれない。「ほどほどに」という言葉で鬼柳が実行する行動は「身体を無理させない」ではなく「身体を無理させているように思われない」の方だと、今更感じた。それではむしろ状況の悪化だ。
この状態まできてしまったら、もう言葉で打破するのは難しい。
「! うぉっ」
座っていた鬼柳を押し倒して、ベッドに背を付かせた。鬼柳の顔の横に手を付いて、上から鬼柳の目を見詰めた。
「さっさと寝ろ」
「え、何……寝ろってどういう意味で……い、いややっぱ皆まで言わなくてもいいその言葉は比喩」
「そのままの意味に決まっているだろう」
わざとらしく「そんな心の準備が……」と口元に手を当ててふざける鬼柳の、ベッドから垂れている脚もベッドの上に乗せて、きちんと寝かせると投げるように毛布を掛けた。
「お前は、どうという事は無い会話をしながらデッキ構成を考えていた……オレが証人になる。誰も訊ねないだろうが、アリバイ工作だ」
「……悪い、その話乗らせてもらう」
やはり限界だったのか、鬼柳は言いながら目蓋を閉じるとすぐに眠りに付いた。
……あとは、ここまで素直にこちらの提案に乗ってくれているほどに積み上げた信用を、崩すことの無いように見張りをするだけだ。
|
|