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■その質問の例外
まさに晴れたのはその一日だけ。次の日から再び雨の生活。憂鬱な気持ちを吐き出す為に大きくため息を付いた。
憂鬱になるのは雨だけが原因ではない。ベッドの上に腰掛けて、頬杖を付きながら考える。
「……はしゃぎすぎた、よな」
思い出すのは昨日の話。束の間の晴れ間にチームで外に出た、その日。一日経過して冷静になると、昨日の悪ふざけを猛烈に反省したくなって仕方がなかった。
「…………」
苦手な物なんて人それぞれだ。それを、おちょくるような態度で追い詰めてしまった。両手で頭を抱える。
「あークソッ!」
謝ろう……覚悟を決めて立ち上がった。それと同時にドアがノックされる。返事を待たずに誰かが入ってきた。
「クロウー! 暇だからババ抜きしようぜー!」
「…………」
覚悟台無し。謝ろうとしていた人間がまさに向こうからやってきた……しかも上機嫌で昨日の話を蒸し返すのが申し訳ないほどに。
そんなこちらの気持ちなどお構いなしに、鬼柳は持ってきたトランプをシャッフルしている。拒否をする暇も無い。
「二人でババ抜きかよ」
「白黒はっきりしていいだろ?」
「……なぁ…………昨日は悪かった」
我ながら切り出し方が雑だったが、さっさと謝ってしまいたい気持ちが大きかった……ただの、自己満足なのだが。
鬼柳はトランプをシャッフルする手を止め、きょとんとした顔で見つめてきた。二、三回大きく瞬きを繰り返す。
「……昨日何かあったか? 偵察しかしてねぇよな……」
「その前だよ前……その、お前が……その……」
単語を出して良い物なのかすら迷い、言葉を濁らせた。本当に嫌いなら単語を出されるのも嫌なはずだ。配慮が難しい……しかし鬼柳は何とか言わんとしている事を理解出来たようだった。
「あー……別にそんな改めて言われるもんでもないだろ……気にすんな。それよりババ抜きしようぜ」
「気にしてるから謝ってんだよ……」
人差し指で頬を掻きながら目線を泳がせた。昨日あんなに嫌がっていたんだ、本当は苦痛だったに違いない……
鬼柳は無言でこちらを観察している風だった。そして斜め上の発言をしだした。
「なあ、お前は男が突然男に抱きついたらウザイと思うよな?」
「は? まあ……そうだろうけど、それが何……」
鬼柳は突然抱きついてきた。大きく優しく。まるでこれは……子供をあやすかのようなそれだ。目を丸くして鬼柳を見ると、微笑んだ鬼柳は身体を離した。
「はいはい、お互い嫌な事しあったんだ。これでチャラな。じゃ、ババ抜きするか」
「…………」
鬼柳は改めてトランプをシャッフルし始めた……さっき『そうだろうけど』と答えたのはあくまで一般論で……
「(これじゃあチャラどころか更に借りが出来たんだけどな……)」
腑に落ちないが、鬼柳がトランプを配り始めたのでそれに付き合ってやることにした。
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