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■他人
その言葉は、微々たる物だが初めて聞いた感情の篭った言葉だったと感じた。
「明日、敗れるということもなる」……五十連勝を成し遂げた圧倒的強さを誇るうちの先生はそう言ってどこかへ消えた。無愛想はいつも通りだが、妙にその言葉が引っかかる。
あんな死神に興味を抱いたのがいつだったかは覚えていない。だが確実に興味を持ってしまっているのはその言葉が引っかかっている時点で認めざるを得ない。こんな些細な変化が気になってしまうほどだ。
それだけに、目の当たりしている光景の衝撃と言ったら無い。
「……」
先生は、いつもの通りデュエルタイムにいつもの戦法で戦っていた。だがその様子は一切違う。
……あんな、微笑を作る事を知っていたのか、その表情筋は。
デュエル相手は、かつての仲間だと言う。そのデュエルの中で無表情男が微笑を見せ、ライフを削られ痛みを表情に表している……相手はこちらが一切出来なかった事をいとも簡単にやってのけた。
この男はもっといろんな表情をする。そう確信出来た。微笑と言わずに大笑いしたり、声を荒げたりする事もあるのかもしれない。だが、その表情を引き立てることが出来るのはかつての仲間や友であって自分ではない……ただ、デュエルの腕を買って雇った人間と雇われた人間だ。
それ以上でも以下でもないのに、体の底で蠢く不の感情は……一体なんだ。
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