seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■霧氷


この街の昼間は本当に酷いもんだ。まるで廃墟、活気などありはしない。
生気のないこの街に生気の無い男……ある意味、デュエルタイムよりも今の時間帯のこの街の方がこの男には似合っているかもしれない。人気の無い酒場、一人死人のような肌の色をしている男。

「絵になりますねぇ先生。場景に見事マッチしている……こんな廃れた所にマッチしていると言われても嬉しくないでしょうが」

声を掛けて存在に気付かせると、その男は最小限の動きでこちらを見た。おそらく声をかける前からこちらの存在など気付いていただろう。興味が無いから無視していただけ。

「……」

言葉に対しての反応すらない。ただただ、無表情で光の反射しない瞳がこちらの姿を捉えているだけだ。実際にこうして対面しているというのに、この男が生きているのか疑問に思う事がある……いっそ不気味だ。
何故この男に話しかけてしまったのかはわからない。無意識に生死の確認でもしたかったのか否か。このデュエルをする機械がデュエルをしていない時は、はたして何なのか。

「コーヒーはお好きですか? 昼間から酒ってわけにもいきませんからねぇ」

インスタントコーヒーを手にしながら様子を見る。相変わらず返答は無かった。しかし僅かに表情変化が見られた……眉間の皺が深くなっただけだが。
コーヒーカップへ目分量でインスタントコーヒを入れ、湯を注ぐ。安物のコーヒーだが……この男に味覚など存在するのだろうか。痛覚など存在するのだろうか……痛みで顔を歪めるような事はあるだろうか。痛みでなくとも…………

「……どうぞ先生、お召し上がりください……おっと!」

差し出したコーヒーは、手を滑り落ちて座っていた先生様の腿へと落下した。勿論故意だ。派手に散らばりコーヒーは四方へ飛び散り、コーヒーカップは床に叩き付けられ音を立て砕けた。

「ああー、ごめんなさいねぇ先生……手が滑りまして……」
「…………失礼する」

熱湯を浴びても眉一つ動かさなかった死神は、ようやく声を発したかと思うとこちらを見向きもせず酒場を出た。
最初から無いも同然だが、完全に気配が消えてから大きく溜息を付く。

「まったく……何なんだあの男は……本当に死人が歩いているんじゃねぇだろうなぁ」

床に散らばったコーヒーカップの破片を見る。例えばこれが刺さっていたら表情を変えただろうか。あの無表情を変化させる為には一体何を…………そうやって深入りしかけた思考から急に抜け出して、我に返った。片手で顔を覆う。

「……なんてこった」

気付いてしまった。
ただ勝ち続けて入ればそれだけでいい、その程度の無表情男の……別の顔が見たいという心情に。次第にあの男へ興味が湧いている事に。

「クソッ……」

力任せにテーブルを殴った。苛立ちに虚無が乗算されただけだった。




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