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■せもたれ
三人は座れるソファに二人で座る。別に窮屈な事など無い。ただ座り方に問題があるのは一目瞭然だ。
「……重いのだが」
横に座る鬼柳をチラリと見る。雑誌を読んでいる鬼柳は、本来その役目を果たすべきソファの背凭れと平行になるように座り、こちらに体重を掛けていた。
「んー? 堪えろ」
視線を雑誌から移さずに鬼柳は言う。その雑誌自体も、真剣に読みふけっている様子も無く、暇潰しとしてとりあえず目線に何か入れている感じだ。この体勢で出来ることは限られている……そう、これは今に始まった事ではない。前からちょくちょく鬼柳はこんな座り方をする。ただこう言った座り方をするためだけに尋ねてくる時もあった。
メインはあくまで、体重を預ける行為自体。
「耐え兼ねる。ソファの背凭れが泣いているぞ」
「ソファの背凭れよりお前の方が安定してる気がする」
「あまり過信していると痛い目にあうぞ……こんな風にな」
ソファの背凭れから離していた身体を背凭れに倒すと、鬼柳の頭は太ももの上に乗る形となる。目を丸くした鬼柳と目が合った。
しかしその目は、すぐに細められた。
「でも、お前支えてるだろ? これ」
「……」
一応そうなるのか。言われてみればむしろさっきの体勢より安定している。
「でもまあ、迷惑ならやめる」
鬼柳は上半身を起こして普通に背凭れへと寄りかかった。どこか物足りなさそうな顔で。
何故か御法度のような気がして出会う前の鬼柳に関して踏み込んで聞けていない。ただ普段の行動、言動から一つの推測が生まれた……鬼柳は、他の人間への精神的な寄りかかり方を知らない、もしくは出来ない。だから無意識なのか自覚があるのか……物理的に寄りかかってきているのではないか、と。
「誰が迷惑だと言った」
鬼柳を自分の方へ引き寄せて凭れさせる。鬼柳は驚いた様子だったが、その顔は満足そうな笑みへと変わった。
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