seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■お邪魔してました


「ふう……この辺にしておくか」

動かし続けていた手を止め、データを記憶媒体へバックアップを施す。なかなか目処が付かず長々と同じ作業を続けていた。時計を見て驚く。もう朝と呼んでもおかしくは無い時間帯。
バックアップの終了を見届け、軽く周りを片付けた後に部屋へと向かった。とりあえず睡眠をとろう……他の事は起きてから。そう思った。
真っ暗な自分の部屋。何も考えず電気を付ける。そしてベッドへ真っ直ぐ向かう……ベッドの真横に立って初めて、違和感に気付いた。

「……っ!」

驚いた。想定していない事に驚いた。当然、この部屋には誰もいないと思っていた……しかし、自分のベッドに自分以外の人間が横になっている。

「…………」

布団を被っているが半分顔が見えている。知った顔だ。見間違えるはずは無い……

「鬼柳」

小さく呼んでみる。鬼柳から返事は無い。代わりに小さな寝息を聞き取ることが出来た。完全に鬼柳は寝ている。
いつの間に来ていたのか、どう言った経緯でこのベッドに寝ているのか。確かめるには鬼柳を起こすしかないが。
鬼柳に顔を近づけた。良く寝ている……その顔はまっさら。こちらを気遣って兄貴面する事もなく、自分に嘘をついて笑う事もなく……そのままの顔。

「……」

とても起こせない。小さく起こさないように鬼柳の頭を撫でた。穏やかな寝顔に、自然と顔が微笑を作る。
リビングのソファで寝よう……そう思って立ち上がりベッドに背を向けた。一歩足を踏み出した所でジャケットの裾を掴まれた。

「!」

振り返る。眠そうな目を擦りながら鬼柳は手を伸ばしていた。

「鬼柳」
「遅ぇよ……しかもやっと来たと思ったらどこ行くんだよ……」

寝起きの少し掠れた声。いつもより低音で囁くように鬼柳は言った。掴んできていた手を優しく離し、その手を緩く握る。

「すまない……待たせていたのか……いや、お前が寝ていたからリビングで寝ようと……」
「何でそんな発想が出来るんだよ。普通は添い寝だろ添い寝」

鬼柳は言いながらもぞもぞと端に寄った。無言で、横に寝ろと言っている……一応、気持ちだけ迷って小さく溜息を付いた後、布団に潜り込んだ。鬼柳は微笑を浮かべる。

「おやすみ、遊星」

言うが早いが鬼柳はこちらの返事を待たず、再び眠りに付いた……抱きついた状態で。

「……こんな状態じゃあ……眠れないな」

苦笑を浮かべてみるが、鬼柳の寝顔を見つめているとそれがただの微笑へと変わる。
睡眠よりも、その顔を見ている方が癒される……そんな気がした。




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