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■どこの誰とは言わないが
街のいろんな所にお呼ばれなんて事は日常茶飯事で、割と引っ張りだこ。慌しいが特に苦では無い。必要とされる事はむしろ喜ばしい事で、出来る限り参加したい。はりきりすぎるとニコに怒られるので注意はするが。
夜の集まりは多いが、昼に打合せがてら……というパターンも少なくは無い。今回は後者。
今後のスケジュール計画の小さな打合せ。出された茶を啜りながら、ふと気になるものがあって視線が止まる。
「……」
高級感漂う黒を基調にしたあまり馴染みの無い機械……と言えば大層に聞こえてしまうが、一般家庭で見かけてもおかしくないソレ。コーヒーメーカー。
以前どこかの誰かさんに、インスタントコーヒーを出して文句を言われたのを思い出した。正直興味が無いのでコーヒーはコーヒーだろと反論したが、さらに文句を言われた。カップ麺とラーメンくらい違うとかで。
そんなエピソードも含めた紆余曲折あって、コーヒーに関連する事柄に、そのどこかの誰かさんが反射的に浮かんでしまうようになった。
「鬼柳さん、コーヒーお好きなんすか?」
あまりにも見つめていたので、持ち主が話題を振ってきた。少し不安そうな顔で。茶を既に出してしまっているのに客がコーヒーメーカーを凝視してればそんな顔になるか。キッパリと否定してやる。
「いや、全然。むしろ苦手? かもな。お前は好きなのか? コーヒー」
「え、まあ……どちらかと言えばそうっすね」
深いツッコミを貰わないうちにこちらが質問する側に回った。相手は困惑したものの、予想通りの反応。
「へぇ、じゃあやっぱインスタントコーヒーとああいうので淹れたコーヒーって全然違うのか? カップ麺とラーメンくらい」
「え? えぇ……まぁ確かに全然違いますけど……」
例え話には触れてくれなかったが、困惑の色を深めながらも答えてくれた。やっぱり味に違いがあるのか……てっきり誰かさんのわがままだと思っていた。
「そっか。ありがとな、参考になった。話脱線させて悪ぃ、とっとと続きするか」
相手にとっては不自然な会話を笑顔で誤魔化し話題をぶった切ると、何事もなかったかのように本来の目的を実行した。
***
家に帰る。ふと思い立って電話した。1コール、2コール……受話器から聞こえてくる、電話に出た人物の声。
「なあ、お前もしオレがコーヒーメーカー買ったら飲みに来るか?」
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