seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
off

■相席


シティにまで買物に来る事は、余り多くは無い。距離が距離なので頻繁に出向くことは難しい。それでも来ない訳にもいかず、たまに足を運ぶ。
割と早い時間に目的のものを購入出来た。買い忘れも無いし、特に寄る所も……

「…………忙しいだろうな」

……特に寄る所も無い。知り合いの生活する箇所がある方へ視線をやったが、首を横に振る。もう、それぞれに生活がある。向こうも忙しい時期だろう……邪魔は出来ない。
まあ折角わざわざ来たし急いで帰る必要も無いと、目に付いた喫茶店へ足を運んだ。店員が元気に挨拶した後、切り替えて腰を低くする。店内が混みあっていて、相席になってしまうらしい。
平日の昼間でも集まるところには人が集まるんだな……とりあえず相席を承諾した。
さっさと御暇できるよう、席へ案内される前にホットココアを注文しておいた。
客層の老若男女っぷりを眺めながら、案内されたのは窓際一番奥の席。

「……」
「……」

ごゆっくりどうぞ、と店員は言い残しその場を離れた。こちらといえば、相席の人間と目を合せたまま双方硬直状態。

「……お前なんでこんな所にいるんだ?」
「……それはこちらの台詞だ……」

相席の人間は知り合いだった。それはもう知り合いだった。こんな事があるのか……テーブルを挟んで、向い合うように腰を下ろした。

「誰かに仕組まれたとしか思えない対面だな」
「誰がオレとお前をわざわざ相席になるように仕組んで得をするんだ」

ジャックは備え付けの砂糖やミルクに手も触れず、出されたままのコーヒーカップを口に運んでいた。相変わらず絵になる光景だ。ただコーヒーを飲んでいるだけで様になるのだから見目とは重要だ。
しばらく頬杖をついてその光景を観察していたら、店員が小さなカップに入ったホットココアを持ってくる。生クリームのトッピング付き。

「もう遊星達の所へは行ったのか?」
「行ってねぇよ。むしろ行かねぇよ……お前ら今忙しいだろ? って思ってたんだが……約一名は喫茶店で油を売る時間があるようだな」

ココアをスプーンでかき混ぜながら、からかうように言った。ジャックは眉間の皺を少し深くして、コーヒーカップを置く。

「別に油を売っているわけではない……顔を出すくらいで時間はとらないだろう。遊星もお前が姿を見せると喜ぶぞ」
「そうだとしても遊星は変に気を使うから、結果的に時間とらせちまうよ。この店を出たらもう帰る」
「…………」

ジャックはテーブルの隅に立てかけられていたメニューを取り出し広げた。ドリンクメニューに目を通していたかと思えば、別のページへ捲り始めた。ジャックに似つかわしくない、華やかなデザートメニュー。

「え、何……お前パフェとか食うようになったのか?」
「食うのは貴様だ」
「は?」

適温になったココアを口に運んでいると、ジャックはメニューの天地をひっくり返してこちらが見やすいようにした。表情は相変わらず真顔だ。態度も無駄に大きい。

「どれにするんだ」
「どれって……何だよ、奢ってくれるのか?」
「そんな金は無い。自分で払え。どうしてもと言うのなら、オーダーくらいは引き受ける」

無茶苦茶な……カップを置いてメニューを見た。ジャックの考えは良くわからないが、目移りするメニューの中から一つ決定して指をさす。承諾したジャックは店員を呼んでメニュー片手にコーヒーとパフェを追加注文した。ジャックがパフェという単語を口にするのはなかなか斬新な光景だ……
店員が遠ざかったのを確認してから、意図を確認する為に口を開く。

「オレは全然事情が飲み込めてないわけだが」
「…………遊星達が忙しそうだから時間をとらせまいと気に病むのなら、喫茶店で油を売っている約一名の時間はどんなに潰しても問題ないだろう」
「……」

窓の外を見ながらジャックは言った。コーヒーカップで口元は見えない。
目が丸くなった。開いた口が塞がらない……心臓だけが一瞬大きく跳ねた。つまり何か。喫茶店に滞在する時間を増やす為の追加オーダーなのかさっきのは。

「クッ……ククク……ッハハハハ!」

喉の奥で抑えていたが、絶えかねて吹き出した。身体を笑いで震わせ顔を伏せる。笑いは収まらない。怪訝そうな口調でジャックが声を掛けた。

「何を笑っている」
「いや、悪い悪い……お前相変わらず遠回しだな……ありがと」

顔を上げて笑いかけると、ジャックは再び窓の外へ視線をやった。

「貴様が訳の分らん気を使うからだ」
「クク……そうだな。今後気をつける」

混み合う店内での長居は少しだけ気が引けたが、せっかくなので珍しいジャックの言葉に甘える事を優先させてもらった。




無断転写を禁止しています