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■起きて見続ける悪夢
黒とも紺とも紫とも取れる奇妙な色の闇が、延々と広がる空間。現実離れしたその場所を現実離れした場所だと認識した時、ああこれは夢かと理解した。
何てつまらない夢を見ているんだ。揺れ動く闇に何の期待も出来はしない。
「闇は嫌いか? ジャック・アトラス……」
「!」
闇しかないこの空間で声がした。知った声だ。目を凝らすと闇の中からゆらりと現れる狂気に満ちた瞳を持つ人物。
「ジャック、お前を殺しにきた」
闇から生まれた人物は殺意を剥き出しにした顔で睨み付ける。そして現実ではあり得ない瞬間移動でこちらに近づくと、抵抗を忘れた身体を押し倒して首を強く絞めてきた。
「この裏切り者……」
強く、圧迫される喉。まるで現実であるかと錯覚する痛み、苦しさ。しかしそれでも死なない確信があった。これは夢だからだ。
「裏切り者ォ!!」
骨が軋む。何故抵抗しない? 身体が動かない。否定しろ。抵抗しろ。身体は動かない。
身体で動く場所は無いか。これが現実だとすると最も不可思議な場所だけが動く事を許可されていた。
「……あの時の行動に後悔は無い…………だが、何も言葉にしなかった事は、心残りだ……言わなくてもきっとお前は理解すると思い込んだ。それは……悔いている……鬼柳」
「ククッ……ヒャハハハハッ!! それを『オレ』に言ってどうする? 夢から覚めろよジャックよぉ……現実に戻れ……そこに本当のオレはいないがな……死んだんだ!!オレは!!!お前達に殺された!!!殺されたんだ!!!!!」
木霊する声、脳に響く言葉。平衡感覚が大破して揺れ動く視界。
全てが、全てが崩れていく……
「……っ!!」
慌て上半身を起こす。辺りは薄暗い。だが見慣れた景色が目に入り、夢から覚めたのだと安堵する。
いつまでこんな夢を見る。いつまで思い出す。いつまで伝えたかった言葉を伝えたいと願う。それは叶わぬ願いだ…………
鬼柳京介は、もう死んだのだ。
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