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■考慮の予定
もう昼かよ、と言い出したのは時計と目を合せた鬼柳だった。昼飯作るから食べていけよと半強制的にリビングからキッチンへ移動させられた。料理を作る前から食卓に着かされる。
鼻歌交じりに戸棚や冷蔵庫のチェックをしているあたり、大分調子が戻ったようだ。
「でも運が良かったぜジャック。オレ普段寝る時くらいしか家にいないから見事なタイミングだ」
蛇口をひねり、鍋に水をためながら鬼柳は話す。
「忙しそうだな」
「そうだなー。なんつってもオレこの街でモテモテだから。やっぱ必要とされるっつーのは嬉しいからな。むしろ働いている方が楽」
鬼柳の言う「楽」というのは精神的なものだろう。だが楽を重視する結果反動はかなりのものなのではないだろうか……さっきの態度を見る限り。しかもどうあがいたって身体には優しいわけがない。
「今日はな……ニコに『鬼柳さんは無茶しすぎです今日一日くらい家にずっといてください!』って怒られて軟禁命令出されてよ。仮眠とったらこっそり出かけようと思ったんだが……まぁ、お前来たしせっかくだから大人しく軟禁されとく事にする」
器用に料理を続けながら鬼柳は言う。ニコ、とは恐らくこの家まで案内してきた子供の事だろう。なるほど。なんとなく鬼柳の生活が見えてきた。すっかり日が出ている時間に訪れて仮眠を取っているくらいだ……ニコとやらが軟禁命令を出すのもわかる気がする。鬼柳の行動は極端だ。
しかしあの子供……しっかりしていると思ったが、もしかして鬼柳が軟禁命令なんて守らないことを予測し、それを阻止することまで見越してたまたま発見した訪問者を家に招き、自分は外出したのではなかろうか……無くは無い。
「もっと生活を改善するつもりはないのか。そんな報告をしたら遊星が不安になって飛び出しかねない」
「適当に捏造しといてくれよ。遊星は心配性だから」
余り物で悪いけど、と鬼柳は皿に乗せたパスタを差し出してきた。鬼柳も席に着き、ようやく対面しての会話が可能となった。
「何故オレが遊星に作り話をしなければならない。お前が規則正しい生活を送れば良いだけの話だろう」
「あー一応考慮はするよ。いただきます」
全然考慮する気のない口調で鬼柳はパスタを口に運び始めた。習って口にする。
「懲りないなお前は……期待に応えるのはいいが、行き過ぎると心配する人間がいる事を忘れるな。お前のところの子供、この街の人間……遊星やクロウが心配をこじらせて病気になるぞ」
先ほどから掠った話題が何度も出ているのに、まるで理解していないのだろうか。本当にこいつは…………と、顔を上げて鬼柳を見ると、じーっとこちらを見ている事に気が付く。
「なんだ」
半眼で見返すと、鬼柳は口を開く。
「お前は?」
「は?」
「お前は?」
小さく首を横に傾ける鬼柳。長髪がさらりと流れた。
鬼柳の言葉が指すもの。直前に出した話題はなんだったか…………すぐに思い出す。
小さく溜息をついてから口を開く。
「……オレもだ」
「そうかー。じゃあ改めて考慮するわ」
今日一番の笑顔で鬼柳は今度こそ本気で考慮しようとする口調で言った。
「まったく……」
手のかかる元リーダー。他人の面倒を見るなんて普段は御免蒙るが、今回は何故か悪い気がしなかった。
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