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■洗い髪
「何かお前、女みてぇな匂いするんだけど」
クロウの言葉の前に別段そんな言葉が出てくるような会話は無かった。きょとん顔になっても仕方が無い。
買物に来る用事とクロウが仕事の休憩だった時間がたまたま合致したので昼間に街中のベンチに座ってる構図が完成したわけだが、折り入って話なんてあるわけは無く、近況報告や世間話を思いつくままに話してただけだった。
その流れで、先のクロウの言葉。
「オレ男だけど、何ならその目で確認するか?」
「お前が男なのは何年も前からわかってんだよ! そんな声で、身体がでかい女がいてたまるか! そうじゃなくて匂いだよ匂い」
クロウは指差呼称が如くこちらを指差していった。匂い? 香水なんてつけていないし、そんな香水つけているような女と接触した覚えも無い。そもそも女と接する機会自体が……女……?
一つ、思い当たる節があった。
「あー……もしかして、シャンプー?」
数日前、ニコからもらったシャンプー。もう慣れてしまったので自覚は無いが……
「シャンプー?」
「ほら」
クロウの方に頭を傾けた。クロウも顔を近づける。
「ああ、この匂いだな……」
「んー」
中途半端な体勢で変に力をいれなければならなかったので、クロウに凭れかかった。顔は見ていないが、身体が強張ったのでクロウの表情が脳内に浮かぶ。
「おいコラてめぇ何やってんだ街中で」
「大丈夫大丈夫。オレ街中とか気にしねぇから」
「オレが気にするわ!」
クロウに身体を押し戻されてベンチの背もたれに体重を預けた。わざとらしく不満そうな顔を作ってやる。
「なぁんだ。いきなり女がどーとか言い出すから誘ってるのかと思ったぜ。街中で」
「んなわけあるか……まあそういうのは……今度、もっと時間があるときに、な」
目を泳がせながら小さな声で。どんなに小さくても聞き逃すはずはなく。
「じゃあ今度二人きりの時にな。楽しみにしてるぜ」
自然となった笑顔のままクロウに言う。目を合せたクロウは小さくため息をつき、微笑になると肯定した。
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