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■メロディー
買い物から帰り、部屋に差し掛かると耳に聞きなれない音が入ってきた。
音、と呼ぶには違和感があるかもしれない。単音ではなく複数の音が、旋律を生み出していた。心地良い曲。
部屋に入る。音の発信源はこちらに気が付くと奏でるのをやめた。
「よぉ遊星。帰ってきたのか」
鬼柳は笑顔で帰宅を歓迎してくれた。こちらもつられて口元が緩む。
「ああ。ところで鬼柳、それは?」
鬼柳の持っていたものを指差す。先ほど聞こえいた音の正体……ハーモニカ。
「漁ってたら見つけた。遊星も吹いてみるか?」
差し出されたハーモニカ。正直ただの四角い金属の塊にしか見えなかった。受け取ってしばらく観察した後、小さく息を吹き掛けてみる。簡単に音は鳴った。ただ、それは『音』と呼ぶのに違和感はなかった。二、三度吹いて吸ってを繰り替えす。その音は旋律へとは変わらなかった。
「……お前が吹いていた方がこいつも幸せだ。もし良かったら、もう一度…吹いて聞かせてくれないか?」
「別にお前が聞きたいなら何回でも吹くぜ……あ」
鬼柳は再び自分の手元に戻ってきたハーモニカの一点をじっと見つめて沈黙した。
「鬼柳?どうした?」
「…………間接ちゅー」
「!」
目を丸くしていると、微笑だった鬼柳は曲を奏ではじめた。
強く優しく、儚いメロディー。
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