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■予兆夜、一人デッキの組みなおしをしていると、ノックが聞こえた直後勝手にドアが開いて鬼柳が入ってきた。 「何か用か？」 「あー、気にするな。続けてていいぜ」 ソファから立ち上がろうとしたが鬼柳に止められたので座りなおす。まるでこの部屋自体に用がある言い方だ。何かをとりに来たのだろうか。しかし部屋を物色する事無く、鬼柳は一切無駄な動きをせずに真っ直ぐこちらへ向かい横に座ると、寄りかかってきた。 「あー、落ち着く」 「……何だこれは」 少し右に目線を動かすと鬼柳の頭が見える。表情は見えない。 「ジャックはどっしりしてるから落ち着くんだよ」 「どういう意味だ……聞きようによっては悪意ある言葉にしか聞こえんぞ」 「良い意味に決まってるだろ？ なんていうかな……どーんとしてて骨太な感じ。見た目じゃなくてな。寄りかかっても折れないような……そんなの」 鬼柳なりにそれらしい単語を並べたのだろうがいまいちピンとこなかった。これ以上聞いたところでさらに頭の悪そうな配置で単語と擬音を並べ続けるだけだろう。 伝わってないことを鬼柳もわかっているのか続けた。 「まあ何でもいい。お前がお前でいるとオレは落ち着くんだよ」 鬼柳は肩に顔を埋めるように体勢を変えた。預けてくる体重も大きくなる。 「なぁジャック。オレたち同じ目標を目指してる仲間だよな？」 「ああ、そうだな」 声のトーンが変わる。きっとここからが本題なのだろう。持っていたカードに視線を落しながら鬼柳の話を聞く。 「ソレってさ……やっぱ、目標があるから……仲間なんだよな……もし、完全制覇を成し遂げたら、オレたち目標がなくなるわけだろ？ そうなったら……」 言葉を切って鬼柳は、額を押し付けるように力を入れた。 「鬼柳……？」 表情を見ようと右を向く。しかし顔を埋められていて表情を読み取ることはできなかった。 しかしすぐに鬼柳は顔を上げた。いつもの明るい表情で。 「まあまだ半分も制覇してないのにこんなこと言ってらんねぇよな！目標なんて完全制覇してから決めれば……大丈夫、だよな……ずっと……仲間でいられるよな…………悪かったなジャック、邪魔して…また明日な！」 一人納得すると鬼柳は早々部屋を出てしまった。一瞬で部屋に静寂が戻る。一体何だったのか……首をかしげながらデッキ組みなおしの作業に戻った。 もし、あの時。なんとなくでも鬼柳の言葉を理解していれば、声をかけていれば……こんな結末は回避出来たのかもしれない。 |
