■ベクトルラヴァーズ
「あいつらって仲良いよなー」
遠目にジャックと遊星を見つめて、鬼柳は呟いた。独り言なのか相槌を求めているのか。一応相槌を打ってみる
。
「そうだな。昔からあんな感じだぜ」
「昔から、か……」
鬼柳は相変わらずこちらに視線を向けずに何かを考えているようだった。考えている内容の主要人物は……聞くまでもない。そして、その主要人物に自分が含まれていない事も。
考えてた内容が何かしらのゴールを迎えたのか、ようやく鬼柳は二人から目を離してため息をついた。
「あーあ…出会う時期が違ってたら……チャンスもあったんだろうな…」
「……時期なんて関係ないんじゃねぇか?別に相手が居たって最終的に結ばれるやつはいるし…万全のスタート
を切ってるのに出遅れるやつだっているんだよ」
ため息をつきたいのはこっちの方だ。誰が悪いわけでもない。なるべくしてこのベクトル方式図が完成した。言
い聞かせる相手は鬼柳ではない……自分自身。
「そうなのか?なんだよそれどこ情報?」
やっと鬼柳の視線を浴びた。その瞳に、本心を乗せて見つめ返す。口ではとても言えない言葉の数々。
「…?…クロウ??」
伝わるわけもない。意図がわからず困惑する鬼柳を見て微笑混じりにため息をついてやった。馬鹿にされたと思
った鬼柳がムッと表情を変える。鬼柳が文句の言葉を口に出す前に遮る形で告げる。
「オレ情報だ。オレ情報」
「お前情報?へぇー…よくわかんねぇけど」
眉を寄せて考える鬼柳に思わず顔が弛んだ。
「お前が理解出来ないの見越して言ってんだよ」
「なっ!なんだそれクロウお前オレの事馬鹿にしてるだろッ」
こうやって些細なことで言い争いが始まる。いや…意図的に始めている、か。
これが一番手っ取り早く視線をこちらに向けてくれる方法だから。
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