■共有
一人壁に寄りかかり、横目で外に視線を向けていた。特に何を見ていたわけでもない。理由を聞かれたら困る。ただぼんやりと窓の外を眺めていた。それ以上でも以下でもない。
「何か面白いものが見えるのか?」
見ていた視線の先をキョロキョロと、突然やってきた我らのリーダーはありもしない面白いものを探し、首を動かしてきた。
「何も見えないぞ」
「へぇー、何も無いのか」
そう言いながらも鬼柳は窓の外を見続けた。人すら通らない動きの無い景色を、楽しそうな笑みを浮かべながら。
……妙な奴だ。
「楽しそうだな」
率直な感想を横顔にぶつけると、鬼柳はその楽しそうな顔をまっすぐこちらに向けてきた。そして笑顔を作って言った。
「楽しいぜ。お前と二人で同じ事してるからな」
よく分からない理由を言い出した。眉間に皺を寄せて鬼柳と対照的な表情になってしまう。
「同じ事、だと?」
「面白いものが見えない窓の外を眺めてる」
それはいわゆる詰まらない事ではないのだろうか。鬼柳の真意は見えない……元々突拍子も無い事を言い出す奴だ。
「同じ時間を誰かと共有するってさ……何か良いよな。どんな小さい事でも」
「…………」
言っている事は分かる。だが……
「余りに小さすぎないか。それは」
何があるわけでもない風景をただ見ている……時間の無駄でしかない。
鬼柳は伝えたい事を頭の中でまとめるように顎に手を当ててしばし考えていた。そして、突然抱きついてきた。
「小さくでもいいんだよ……お前となら」
「オレ限定、か?」
少し鬼柳が身体を離し、顔を上げて見つめてきた。目を逸らさず微笑で唇を動かす。
「お前限定」
「……そうか」
その動いた唇に、口付けを落としてやった。
|