seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■桃の節句

「うわ……瀬人様が真昼間の公道歩いてる……珍しー」

下校中、通学路を歩いているだけで珍しがられて声をかけられた。下校といっても書類を受け取るだけで授業は一切受けておらず、そもそも学校に行った時点で既に放課後と呼べる時間だったので珍しがられるのもやむを得ないところはある。
だが、声を掛けてきた人物が、言葉をそっくりそのまま返してしまいたい類の人間なので多少は新鮮味があった。

「……貴様は夜行性なのかと思っていたが」
「普段は。今日はたまたま用事があっただけだ」

バクラは学生服を着崩し、通学用のカバンとスーパーのレジ袋を所持していた。恐らく学校帰りなのだろう。学校帰りに用事がある、もしくはあった……と認識できるが。

「また何か良からぬ事を考えているではなかろうな」
「まさか。ただの買物だぜ」
「買物……?」

先ほどは視界に入る程度の意識しかなかったバクラの所持する袋に再度視線をやった。話の流れからすると自然な目線移動だと思ったが、バクラは自分の背後に手を回しソレを隠した。不信に思い、視線をバクラの顔に戻せばバツの悪そうな顔をしている。

「え、えーっと……嘘。買物じゃなかったわ。散歩」

そんな言い訳が通用すると思っているのだろうか。どちらかと言えば賢いと思っていたがそうではないのかもしれない。
普段は別に他人の買い物した商品など気にも止めないが、これの場合こちらに何かしらが巻き込まれるものを購入している場合が無くも無い。思わず眉間に皺が寄る。好奇心ではなく警戒心が真相を知ろうとしていた。

「……」

実力行使。ただむやみに奪おうとするより効率が良い手段に、抱き寄せる方法を選び決行した。
「!?」

予測通り、抱き寄せられたバクラは困惑して硬直する。そのバクラから素早く袋を取り上げてさっさと身体を放した。一瞬の出来事だ。

「っ……社長様よぉ……よりによってオレ様から…盗みを働くか…?よりによってオレ様から……」
「盗みではない人聞きの悪い事を言うな……」

何故か必要以上にダメージを受けているバクラをヨソに、袋の中身を確認した。奪った時あまり重いものではなく、よりいっそう中身の見当がつかなかったのだが……

「……」
「……」

互いに無言になったが理由は少しも似つかない。
向こうは肩を落とし溜息をついている。こっちは予想外すぎて目が点になっている。向こうは『見られてはいけないものを見てしまった』と表情を暗くしているが、それに対抗して『これは見てはいけないものを見てしまった』という表情に……なれるわけもない。
正式名称が存在するのかはわからないが、この名称で大方の人間には伝わるだろう。袋の中身は、俗に言うひなあられ。本日桃の節句に何の違和感もない商品であって隠すようなものでもない。

「い、言い訳させてくれ瀬人」
「…一応聞こう」

言い訳の必要性もわからないまま内容を促した。バクラは相変わらず失態をおかした体を崩さない。言いにくそうに頭をかきながら言葉を発した。

「いやその……そんな奇怪な色してたらなんか…どんな味だろうなぁって、気になるだろ?」
「ならないがわからなくはない」

ここまでは特に不思議な事は無い。続きを待つ。

「女が食うものだってわかってるけど、どうしても気になって…」
「…………」

今初耳の情報が聞こえたのは気のせいだろうか。いつからひなあられは女だけの食べ物になったのだろうか。こちらの訝しげな表情に気づくことなくバクラは続ける。

「だからちょっと出来心で…その……食べてみたく……」
「……安心しろ……今日日ひなあられなど小学校の給食にも登場する……無論、男女平等にな」

あきれ返った溜息と共に力無く袋をバクラに返した。無駄な労力と時間を使ってしまった。

「へ?だってひなまつりって女の行事じゃ……」
「行事はそうだろうが食べ物にそんな制限があってたまるか」
「なんだ……そうなのかよ…心配して損した」

どちらかと言えば知識が豊富だと思っていたがそうではないのかもしれない。今日は認識の食い違いが生じてばかりだ。

「心配して損したはこちらの台詞だ……」
「え?なになに、社長何かオレ様の心配してくれたの?」
「寝言は寝て言え。オレ自身の心配だ…しかし時間の無駄だった」

本当に。なんて無駄な時間だったのだろうか。一般の学生はこんなに無駄な時間を経由して毎日を過ごしているのか。逆に尊敬する。

「ま、瀬人様にハグしてもらえたし、気兼ね無くひなあられも食えるし、良い事尽くめだったな」
「…………」

確かに時間は無駄にしてしまったが、特に不快な思いも無い。一応学生の肩書きも持っている。たまには学生として無駄な時間を過ごすのも一興か……幸せそうに笑う顔を軽く小突いて、無駄な時間を取らせた分をチャラにした。



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