seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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アメリカにいる場合でもメールのチェック体制は変わらない。
受信ボックスの件名などは酷く適当に流し読みする程度だ。全てまともに相手をしていればキリがない。主要取引先はアドレスを登録しているし、フォルダにふ りわけるようにも設定してある。最悪、見逃していたとしてもメールが再送されてきたり細則の電話が入ってきたりするだろう。
新規取引先とのやりとりは部下を通してから行っている。

「…………」

つまりこれが目に入ったのは偶然である。
何の文字列も入力されていない件名は長い英文に挟まれて逆に目立っているとも言える。メッセージの内容はURLが貼り付けてあるだけ。
その二点は即刻削除対象なのだが、目に付いたのは送信者。@の後に続くドメインは何の変哲も無いフリーのwebメールであるが、@以前に並ぶアルファベット。
【to_seto_from_bakura@……】思わず眉間を押えたくなるアドレスだ。
改めて本文を確認する。メールを全選択してみる。改行も空白も無い。白文字で何かが打たれているわけでもない。
ならば用件は本当にこのURLただ一つなのだろう。送信日は10月……2週間は経っているだろうか。この期間にあいつとは連絡をとっていないが……そもそもあいつでない可能性もまだ多少なりは残っているか。

「…………」

URLを観察する。日本のレンタルサーバーのソレだ。拡張子はhtml。
さあどうするか。開いた瞬間にウイルスが散乱したとしてもそれに感染しない自信はある。自社で開発したセキュリティソフトはほぼ完璧。いくらオカルトパワーといえどこんな間接的なものには使えないだろう。
もう一つの可能性は精神ブラクラ。どちらかと言うとこちらの可能性が高い。しかしそうだとすれば逆にどの程度の精神ブラクラなのか気になりもする。

「くだらん……」

あいつが何を企んでいるのか。そんなものはこのURLをクリックすれば全て解決するのだ。無駄な憶測で時間を潰している暇は無い。
カーソルを自動でリンクが貼られているURLの上に持っていくと、左クリックを施した。起動するブラウザソフト。さあ、一体何が表示されるのか。画面に集中する。

まず聞こえてきたのが音楽。安っぽい音源を精一杯加工した聞き覚えのあるメロディー。

「…………10月……なるほど……25日、か……」

スムーズに流れるベクトルグラフィックで作られたアニメーション。飛翔する青眼の白龍。
最後に現れるのは既存のフォントを改造した『Happy birthday』の文字。
全てが再生されるとまるで監視でもしていたかのように携帯電話が震えた。電話の相手は言うまでもない。迷わず電話に出た。

『よぉ……なんつー時期に見てんだ。とっくにゴミ箱かと思ってたぜぇ』

「……受信フォルダの整理を毎日やっているわけではない。すぐ見て欲しいものならばそれ相応の工夫か電話連絡をしろ」

電話の主とメールの差出人は同一人物とみて間違いはない。htmlページにこちらがアクセスした事を解析などはそう難しいわけではない。元から後報電話までがシナリオではあったのだろうが……毎度毎度手の込んだ事をしてくる。

『こーゆーのは自分からアピールしちゃつまらねぇんだよ。あくまで仕掛けた後は受身だ。そーゆー美学があってだな……』

「そんな美学は知らん」

『だろうなぁ……クク……』

バクラは喉の奥で笑う。時差があるはずだが向こうは何時だろうか。元々時間などお構い無しに神出鬼没なやつではあるが。

『なぁ瀬人……』

「何だ」

バクラがぼんやりと話し出す。朦朧としているような曖昧な口調。

『本当のシナリオはこうだ……メールに気づかれずゴミ箱に入れられ削除されて……そしてオレ自身も瀬人の記憶から奥に追いやられ消される……それを望んでいるのか恐れているのか自分でもわからねぇ……でもやっぱ、気づいて貰えたら貰えたで嬉しいな』

「…………」

手を伸ばしても通り抜けてしまうような、そんな感覚。現実離れした錯覚に脳が揺れる。
そのシナリオは一つ欠けている。存在……バクラ自身の事。

『瀬人』

「……何だ」

電話の向こうでバクラが自嘲するのが見えた。

『……お誕生日おめでとうございます』

「二週間遅い」

目で訴えられないのはこんなにもハンデだったのか。口が達者で逃げ足が速い自称盗賊。普段捉える手段は目。表情よりも言葉よりも、奴がもっとも本音を出す部分。

『そうだな……』

「来年はきちんと当日に祝う事だな」

『!』

知っている。何故バクラがシナリオから自身の話を伏せたかを。何となく、信じがたい事でしかない。ただ……こんな事を過去にも経験したような気がした。

『クク……ヒャハハハ!!ああ……次は日付が変わると同時に祝ってやるぜ……覚悟しとくんだな』

「ふん……」

元から覚悟している……少しでも、心を許した時点で。

ずっと動き続けていたアニメーションを、そっと保存した。



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