seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■秋の桜

「本日、瀬人様のご予定。早朝会議終了後、至急の書類を片付けたのち遠方へ得意先主催の展示会参加。先方に挨拶程度の来訪後直帰……何か間違いはございますか?」

手帳のようなものを見ながらスラスラとスケジュールを読む様ソレは、秘書の真似事でもしているかのようだった。その手帳のようなものがどう見ても机に置い ていた展示会のパンフレットでなければ、そしてラフな格好をしていなければ秘書に見えなくもなかったかもしれない。これはまさに早朝会議を終えて社長室へ 戻った直後の出来事だった。

「貴様がここにいるのが既に間違いだ」

「ついでに言えば予定通り会社を出て駅にたどり着くのなら、新幹線の出発時間まで余裕がある……出発前に並ぶ必要もないからなぁ。グリーン車予約の社長様は」

こちらの話など何一つ聞かず、秘書気取りの侵入者は話を続ける。確かにスケジュール自体には何も間違った所は無い。それはそれで外部者にスケジュールが漏 れているセキュリティ体制に問題があるのだが……セキュリティに関して言えばこの男の存在をどうにかしなければ次から次へと突破されてしまう。未だに信じ られない事ではあるが。

「それがどうした。オカルト自慢か」

「そう聞こえたなら随分社長様はオカルトを意識しているように見受けられる」

バクラは含み笑いを見せてきた。眉を顰める。反論出来ないからだ。ある意味オカルトを意識して仕方のない部分がある。あくまでもセキュリティに関する問題だが。
机の上を確認し、時計に目を向けてから再びこちらに視線を合わせてきたバクラが口を開く。

「決済待ちの書類も多くはないし十分だな……新幹線に乗る前の10分だけ付き合ってくれよ。先に駅で待ってるぜ」

何もかも勝手に話を進め、バクラは窓を開けた。奴専用の出入り口だ。

「一体何をしようというのだ……」

溜息混じり呟くと、窓に身を乗り出しかけたバクラがこちらを振り返り一言告げた。

「桜を見るんだよ」

そして消える。

「………………」

桜?
カレンダーを見た。11月。携帯電話を取り出した。11月。机の前に移動しパソコンの画面を見た。11月。

「……まったくもって理解できん……」

嫌な予感しかしないまま、書類を片付けてタクシーへと乗り込む筋書きを進めるしかなかった。



駅周辺でタクシーを降りると、少し離れたところにバクラはいた。待ち合わせもしていなのに何故的確に場所がわかるのだろうか……

「予定通り。流石だな社長ォ」

仁王立ちで出迎える態度は、やはり秘書として傍に置くには即失格である。

「何の予定だ……」

「オレ様のスケジュール帳の予定」

バクラは手ぶらだ。だがその手は自身の頭を指差している。誰にも見られない最強のセキュリティを誇るスケジュール帳だ。ただし精確性はまったくない。

「貴様のスケジュール帳は一体何月だ」

「11月に決まってるだろぉ?何を言い出すんだ社長様は」

大げさに溜息をついてバクラはゆっくり首を横に振った。やれやれ。そう口に出しても違和感の無い仕草。

「何を言い出すんだとはこちらの台詞だ。貴様先ほど何をしにいくと言った?」

「桜を見にいく」

大げさに溜息をついてゆっくり首を横に振ってやった。やれやれ。そう口には出さなかったが。

「11月に桜を見てどうする」

馬鹿馬鹿しい。突拍子も無い事を言い出す奴だとは思っていたがまさかここまでとは。
しかしバクラはこちらの腕を掴むと半ば強引に歩き出した。

「どうせ時間あるんだからいいだろ?散歩だと思ってていいぜ」

「…………」

目的地は大方わかっている。近くに花見が出来るスポットがある……恐らくそこだろう。しかしそれはあくまでも春の話。冬の空気が見え隠れしているこの季節 に行くような場所ではない。そもそも春ですら滅多に訪れることは無い。駅から近いことは近いが通り道ではないので、そこを目的地として歩かなければならな いのだ。
だから訪れるのは数年振りかもしれない。
歩くにつれて人の数はまばらになり、自動車の騒音も薄くなる。
見えてくるのは恐らく花の無い寂しい春以外の桜……

「っ……!」

「さあ桜だぜ?実際11月に桜を見て瀬人様は何を思う?」

確かに見えてきたのは花の無い桜。しかし寂しいなんて事は無い。少なくともその色には。
風に吹かれ、桜の葉がゆっくりと足元まで落ちてきた。冬に備え色付いた鮮やかな赤。

「別にいいじゃねぇかよモミジじゃなくたって。どっかの誰かを思い出して良い気がしねぇしな……」

どっかの誰かは置いておくが。確かに紅葉はモミジやカエデだけのものではない。桜が紅葉していてもおかしくは無いのだが、まったく予測していなかった。

「予想外だった……」

「クク……春に散々楽しんであとは見向きもされない木か。世間は冷たいよなぁ」

木の幹に手を当てバクラは笑う。その笑みは自嘲にも似ているが気のせいだろうか。

「……まあ、これだけなんだけどな……ただあんたと、外の景色を見たかったっつーか……何つーか…………もう10分だ」

足元に落ちている桜の葉を拾いくるくると回しながらバクラは言う。視線は葉に向いている。しかし時計を確認すると確かに10分経っていた。

「貴様……」

「さあ、新幹線に遅れてしまいますよ瀬人様?」

こちらの領域にはどんどん侵入してくるのにこちらが踏み込もうとすれば壁を作る。つくづく……食えない男だ。

「暗に社長室の模様替えをしろとでも言っているのか?」

「ヒャハハ……どんなに室内動かしたって大自然の変化にゃ勝てないぜ?あんたはあんまり外の景色なんて見ないだろうけどな……一応、約束してたんだぜ」

聞き漏らしてくれとでも言わんばかりの小声でバクラは呟く。残念な事にしっかり耳に入ったのだが、本当に新幹線の時間が迫っていたので詰め寄るのは次に機会があれば、だ。

「……オカルト話は聞かんぞ」

「だから違ぇよ…………いってらっしゃいませ、瀬人様」

真っ赤な桜を背景に寒色の髪をなびかせ、バクラは消えるように笑った。






「ちょっと遠出した時な、赤い葉をした木があったんだ」
「なんだそれは……不気味な」
「綺麗だったぜ?セトと一緒に見たかったなぁ」
「馬鹿を言うな。そもそも普通の会話を交わすだけで一苦労だと言うのに……」
「夜の室内はもう飽きたぜぇ……なぁセト。いつになるかわからねぇけどよ、一緒にいろんな景色見にいこうぜ」
「だから馬鹿を言うなと……」
「嫌か?」
「…………ふん……期待しないで待っておく」
「よーし、とりあえず目標は赤い葉っぱの木だなー」


……新幹線内でうたた寝をした時、何か夢を見た気がしたが詳細は覚えていない。



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