seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■孤独

「ベッドっつーのは、やっぱ心地良いもんだよなぁ……」

こんな事を国民には口が裂けても言えないが、面目ないことに賊の侵入を許してしまっているこの神殿の警備体制。
言い訳をするわけではないが決して警備に手を抜いているわけではない。この侵入者が一枚上手なのだ。そして目の前にして捕らえないこちらにも落ち度はあるが……他の者に知られなければいい事。

「まったく……もっとまともな生活を心がけたらどうだ」

まるで敵対している同士というものを感じさせない会話はこちらから切り出すことになった。相手もまるで気を許す友人かのように返してくる。

「あーあ……人とのまともな会話が説教なのかぁ?」

勝手に人の寝床に転がっている不法侵入者は図体に似合わない子供のような表情で唇を尖らせている。言っていることは子供とも何とも言いがたい内容だが……小さく溜息を付いた。

「…………孤独な生活だな……」

それは何の重みもない単なる呟きだった。少なくとも発言者としては。
しかしバクラの顔から子供のような表情は消える。まるで、人格交代でもしたかのような雰囲気の変化。

「孤独?そうか……くく……神官様は一人でいる状態を孤独だと思いますかぁ?」

誰が聞いても裏のある大げさな言い回しと冷たい瞳。きっと先ほどの言葉はバクラの核心を突いた。だが何がどう突いたのか見当がつかない。

「……何がいいたい」

盗賊と神官として、付き合いにはボーダーラインがある。ただでさえ深い人付き合いは苦手だ。相手が盗賊だからというわけではない。身内だろうが部下だろう がそれは同じ。そのボーダーラインを超えることは互いにしない。どちらが決めたわけでもない。ただそれがルールになっていた。
今、この会話は恐らくボーダーライン際の会話。向こうも言葉を選ぶ。

「オレ様はなぁ……一人でいる時は別に孤独とかそんな単語頭を過ぎったりはしねぇよ。むしろ……周りに人がいる時に感じる。どちらかと言うとな」

ソレは先ほどの会話に対しての意見か。久々に人と接した……一人でいた盗賊に対して『孤独』という枠へ配置した事への意見。
確かにそれは安易だったかもしれない。しかしそれでも……

「理解に苦しむ……」

人に囲まれて孤独?それは矛盾しているのではないだろうか。

「理解しないほうがいい……一生な。セトには理解してほしくねぇよ……」

バクラの顔はボーダーラインから離れた位置の余裕がある表情に戻った。微笑混じりに寝返りを打つ。

「なんだそれは」
「さぁ?なんだろうなぁ……」

それ以上の話はボーダーラインを超える……そういう事か。円滑な関係を築くために知ってはいけない部分もある。過去であれ本心であれ……ただでさえ脆い関係なのだから。

「……貴様は今、孤独だというのか?」

一つだけ確認しておきたかった。他人といることがこの男の中で孤独だというのならば、今こうして会話している事も孤独という事になるのではないか。
だがバクラの回答はそんな仮説を見事に崩し去った。

「今この瞬間の事をさしているなら孤独じゃないぜ。むしろ逆じゃないか?」

穏やかな表情、暖かい瞳。嘘も裏もない本心。

「……ますますもって理解できん」
「だから理解しないほうがいいんだって」

へらへらとあしらわれ、それからはまた大して中身のないやりとりが続いて別れの時間を迎えた。
盗賊の言う『孤独』を理解できぬままに……




盗賊の最期は悲惨なものだった。しかし誰もそれを悲惨だとは思っていない。

「ついにやったな」
「ああ。これで少しは平和になるだろう」

今まで悪事を働いていた大玉が死んだ。人々にはその事実だけで十分。
街の中を歩けば大人から子供までその話が広まっている。盗みもした、殺人もした。大悪党が死んだ。嬉々と話す人々。
こちらの姿を確認すれば街の人間は笑顔で話しかけてくる。悪の盗賊を倒した正義の神官の一人として。 勿論それに敵意はない。周りに人は沢山いる。こちらに好意のある人間が、だ。
しかしこれは何だ……こんなにも人が溢れているのに、まるで自分だけ違う世界に住む人間のような感覚のズレ。意識の違い、意見の反発……

「……ああ、そうか……」

確かに、理解しない方が良かったかもしれないな。


これが……お前の感じていた『孤独』か……



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