■闇、月夜、奇跡
あいつが来るのが「当たり前」であった日常が消えてしまったのはちょうどエジプトへ向かったあの日からだった。そして、来る「日常」から来ない「日常」へと変わる事は大した月日を必要としなかった。ただ、事実だけならば。
心への侵入を許したわけではなかった。そう思っていたはずなのに、あいつが来ない日常は酷く詰まらなく心中燻っていた。
それすらも慣れた、ある夜。
月が、綺麗だった。静寂の中に浮かぶ月は神秘的に映りそれ以上の何かを感じさせる。月の魔力だろうか。何か、日常とはかけ離れた事が起こりそうな木の葉の揺らめき。
そんな、非現実的な思考に走るなどとはどうかしていると思った。これも、日常が変化した弊害にすら思え眉間に皺を寄せる。
あいつが、一体なんだというのだ。あいつが一体何をしたのだ、この俺に。
もうそれを問いただす事も出来ない。奴はきっと地中に眠っているのだから。
眠っているはずなのだから。
だから、これはきっと夢幻。
あのときの「日常」のようにセキュリティを諸共しない侵入者の影が窓に見えるなどとは。
これは、夢か・・・
「何故、いる・・・」
奴は笑った。
「月が綺麗だったから・・・ルールを破ってでも瀬人に会いたくなった」
月の魔力が再び日常を変えた。
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