seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■考え方の差

「瀬人!これ!これ知ってるか瀬人!!」

軽く興奮状態で客人は突然やってきた。こんばんは。そんなものは無い。お邪魔します。そんな精神持ち合わせているだろうか。
そもそも客人ですらない。客人は日々セキュリティが強化されている防犯システムを掻い潜って訪れない。
防犯システムを突破されるたびに強化する。それすら潜られる。繰り返し。おかげでいままで万全だと思い込んでいたセキュリティにも所々穴を発見し埋めると いう作業で世界に誇れる防犯システムを改めて名乗れる自信が出てくる。それでも害の無い不法侵入者だけはどうしても阻止出来なかった。
これ、ともったいぶって名前を言わないのか本当に名前を知らないのか分からないが侵入者が『これ』と言っているものに一応目をやる。立て込んでいる時期な らば問答無用で追い返していた。しかし今が比較的余裕のある時期だとまで理解してのネタフリなのだろう。そういう所は何故だか気が利く。
『これ』は予想以上に小さく、バクラの手の平に収まっていた。そして『知ってるか?』と問われたからには珍しい代物なのだろうと思っていた。
そこにあったのは一般的に良く知られたミニカーだった。
・・・見た目が似ているだけだろうか。そう考えているとバクラがミニカーを机の上において後ろに引いた。

「見てろよ、見てろよ」

バクラがパッと目を離すと、ミニカーは机をその見た目と釣り合わぬ速度で疾走。思いっきり机から飛び出し床に激突しひっくり返った。
現実の車なら大爆発が起こっていたに違いない。

「な?な?凄いだろ??」

バクラの目が輝いている。何が凄いのだろうか。悲惨な事故の再現だったのかこれは。リアクションが取れない。
ミニカーを拾い上げたバクラがそれをしげしげと眺めながら言った。

「電池も何も入ってないんだぜ?凄いスピードだよな・・・こんな玩具があったなんて知らなかったぜ」
「・・・・・・知らなかったのか?」

どんなにおもちゃの類に興味がない人間だってほとんどの人間が知っているだろうこのミニカー。それを一般人に馴染みが無いTRPGまでやってのけるこの決闘者が知らないのは予測できない事だ。
バクラはこちらの反応に対して残念がる様子もなく再びミニカーを走らせた。

「ああ、やっぱ知ってたのか・・・そうだよなぁ、海馬コーポレーションの海馬瀬人だもんなぁ・・・」

こういうおもちゃやゲームには詳しいと認識されているようだ。バクラは再び床に墜落したミニカーを机の上に置くと近くの壁に寄りかかった。

「俺でなくとも知っている人間の方が多い。貴様は幼少の頃手にしなかったのか?」

一つくらい家にあっても不思議ではない・・・こいつなら、尚更だ。

「さぁな・・・でもまあ、家にあったものだから宿主のもんだろうな。オレ様が別の奴を宿主にしてる時に遊んでたものなら記憶を漁らないとわからねぇな・・・そんな細かい記憶まで探る意味もわからないし・・・・・社長の嫌いなオカルト話だし、な?」

どうせ信じないだろう?と言う事か。二重人格ならば認めている。だがそれ以上深い所はどうしても理解出来なかった。嘘を言っているようには見えないのだけれども。
机に置いてあるミニカーを見る。後ろに引いて走るという単純なもの。車の種類だって子供の頃は意識せず、色や形が違う程度の認識。それでも夢中になった代物。
ボードゲームやカードゲームは比較的大きくなってからの遊び。それ以前の、まだ本能に近い行動をとる子供向けの商品というものが当社にあっただろうか。ふと考える。
孤児院の記憶を呼び覚ます。あそこにはモクバより歳幼い者もいた。その者達向けの玩具・・・考える余地があるかもしれない。
考え込んでいる様子に機嫌を損ねたという意味をとったのか、バクラは小さく溜息をついて窓へと歩み寄った。こいつ専用の出入り口である。

「んじゃ、厄介者はそろそろ帰るぜ」

普段は特に何もせず見送るだけだったが。今日は厄介者と片付けるには惜しい。

「・・・待て。夕飯くらいなら用意させるぞ」

向こうが無意識にしろ、こちらは結構な事に気づかせてもらった。簡単にだが礼くらいしても良いかと思った。軽い気持ちなのだが。
バクラは硬直してこちらを振り返り呆然としている。当たり前か。こちらから何かを提案するなんて滅多にないからな。

「え・・・いいのか?」
「いらないのなら別にそのまま帰っても構わんが?」

無理矢理食わせても礼にはならないだろう。だがバクラは大きく首を横に振った。

「いるに決まってるだろ。気まぐれでも嬉しいぜありがとう瀬人。今度礼をしなきゃだなぁ」

やけに嬉しそうな笑顔を浮かべるバクラ。礼の礼などしてはキリがないだろうに。小さく溜息を付く。
他人の価値観なんてものは一切興味がなかった。だがたまには知るのも悪くないかと思った。
それが特定の相手限定だけに対する感情だという事に気づいたのは、随分先の話だった。



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