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■崩
ありえないと、思ってた。
それは長年の蓄積された関係といつまでもそれが続くだろうと油断していた己にあることは重々承知である。
だが、こんなにも簡単に折れてしまうものなのだろうか。
眼鏡をはずせば、全てを見透かしているような魔の瞳。
全てが正しいと錯覚する変幻自在の話術。
今までの位置関係が継続していたことすら幻であろうとか、過去の記憶を疑った。
意地を張る必要性を無にし、幻術にかかったように折れる意思。
・・・こいつになら、抱かれてもいいだろうか。
もはやこの空間で見失った、本心。
何が嘘で何が強がりで何が求めるものなのか。
もう、どうでも良くなった。
「・・・案外、諦めるのが早いですねぇ」
「・・・・・お前は俺をどうしたいんだ」
小さく笑えばさらりと動く淡い色の髪にいつもの口調。
いつもと違うことと言えば押し倒されているのは自分の方で、相手は象徴とも言える譜眼を制御する眼鏡をつけていないことだけなのだ。
うまく、思考が動かない。そんな問いかけをしても軽く流されるだけなのに。
「さあ?どうしたいんでしょうかねぇ。私にもよくわかりません」
ほら、やっぱり。
昔から一緒にいる。もうわかってる。
夜二人きりになることもはじめてじゃない。ベッドの上で会話をするのもはじめてじゃない。
何も心配することなんてない。
ああ、そうか。これは別に慌てるような事態ではないのだ。
ただの日常だ・・・
「ジェイド」
「何ですか?」
張り詰めていた何かが音も立てずに限界を迎えた。
きっと滅入っていたのだ。別に、この状況にではなく。
何か、いろいろなものに。
だからこれは気の迷いだ。
きっと、相手はそれを悟ってくれるだろう。
だから・・・もう、いい・・・・
「好きにしろ・・・」
抵抗せずに流される。
片腕で顔を覆った幼馴染の稀に見る行動に、押し倒した張本人でありながら目を丸くした。
月が、やけに眩しい夜だった。
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