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■雨
雨。
散歩のできないぶうさぎ達が部屋の中で暴れまわる中、ガイは窓の外を眺めつづける。
水上の帝都に降る雨と、記憶の底に眠る故郷に降る雨は同じ色だった。
雨が降ると外では遊べない。
雨の降る日、一緒にいてくれたのは姉上と、メイド達と、そして・・・
『ガイラルディア様』
そう呼ぶ声は過去の思い出か、都合のいい幻か。
遠い・・・現実なのかすら定まらない優しい笑顔・・・
───グイッ
「!?」
突然背後から伸びてきた手によってガイの視線は遮られた。
相手の想像はついていた。ここは、皇帝陛下の部屋なのだから。それ以内の人間が滅多に入ってくる場所ではない。
しかし、現実の映像から遮断されたまま声が降ってこない。
雨音だけが耳に入る。
声が、ききたい。
「・・・・・・・・陛下」
声が、ききたい。
『ガイラルディア様』
現実の地にしっかりと足がついてると実感できるように。
・・・幻をかき消して欲しい。
「陛下・・・」
何も見えない状態で過去と現実が混ざり合う。
ここに降り続く雨と、過去に降り続いた雨が同じ色だから。
『ガイラルディア様・・・』
「・・・・・・・っ」
返事をしてはいけない。名前を呼び返してはいけない。
あれは幻なのだから。
あれは幻でしかないのだから。
「・・・・へい・・・か・・・」
封じられていた視覚が復活する。
窓を見る。雨は上がっていた。
雲から漏れ出す、一筋の光。
後から抱きつかれる。顔は見えない。
「お帰り、ガイラルディア」
今は、その声だけで十分だった。
「・・・貴方がなかなか迎えに来てくれなかったから・・・なかなか帰れませんでしたよ・・・・」
「でもお前は自分で帰ってきただろ?」
「・・・・はい」
雲が裂けて街中に広がる光。
また、水上の帝都は明るさを取り戻した。
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