seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■単純な言葉

それはまだ両手の指で自分の年齢が表せる頃。
ぼんやりと眺めていた木の上から落ちてきた影。
その影が小鳥だと気がついたのは完全に落下し、地面に叩き付けられてからだった。
きっと小さいから子供なんだ。鳥の種類を良く知らない思考はそう判断した。
羽根をばたつかせてもうまく飛びあがることが出来ないその鳥は空を見てか細い声で鳴く。
木の上には仲間がいる。でも、飛びあがることが出来ない。
誰か、気付いてやれよ。
一人は寂しいんだ。
それでも穏やかな昼下がり、聞こえるのは一人ぼっちの悲しい鳴き声。
言葉をよく知らない少年はそれを「泣き声」だと思った。
一人は、寂しい。
誰か。
誰か・・・






「・・・・・・・・・・・・」
遠い記憶だった。
子供の頃、外気に当たる手段は窓をあけるか庭に出るかしか無く、一人のときは暇以外のなにものでもなかった。
いや、あんなに人のいる屋敷だ。一人きりという状況の方が少ない。
でも、一人きりだった。
人よりも言葉を覚える時間の短かった少年はそれをうまく言葉に出来なかった。
何も、伝わらなかった。
それは時が解決してくれると思っていた。しかし、数年経ってもその感情を言葉にする術は持たず。
いままではそれでよかった。別に伝えようと思う事柄もなかったし、伝えたい人間もいなかった。
「ルーク?寝たんじゃなかったのか・・・?」
そう思いこんで物音を立てずに入ってきた、今日同じ部屋に泊まることになった幼馴染は拍子抜けした様子で言った。
「ガイ・・・いや、なんか目ェ覚めちまって・・・」
頭をかきながら苦笑する。
なんでいきなりそんなことを思い出したのだろうか。
今は、もう一人じゃない。信じることの出来る仲間がいる。それに・・・信じてくれた・・・・
「ガイ」
そうか。
そうなんだ。
ルークはガイを見つめた。
いままでは、別に相手に自分の気持ちなんて伝わらなくてもいいと思ってた。
でも、今は。
「ルーク・・・?」
自分の名前を呼んだ後に凝視され、ガイは戸惑ってルークに声をかける。
その声がスイッチだったかのようにルークはガバッと身を乗り出した。
「ガイ!!!!」
「な、なんだ・・・?」
突然叫んだルークの声と態度にガイは戸惑いの念を強めた。
「俺・・・本当にガイには感謝してる・・・ほんと・・・すっげぇ感謝してるんだけど・・・・どうしても、うまく言葉が出てこなくて・・・もっと、いろんな言葉知ってれば・・・・・」
ルークは真剣だった。
最初はきょとんとルークを見守るしかなかったガイだったが、その単純な言葉の羅列に自分の想いを伝えようと必死な様子に優しく微笑んでルークの頭に手を乗せた。
「ルーク」
「わ、悪ぃガイ・・・俺わけわなんないこと言ってるよな・・・」
「そんなことないさ。それになルーク。言葉ってのは確かに知ってりゃ便利なこともあるかもしれない。でも自分の想いを伝える時、いくら自分が沢山の言葉を知っていても相手が知らない言葉なら意味の無いものだ」
硬直してるルークの頭をそっと撫でる。
子供扱いすんなよ!と手を払われるかと思ったがそうされないのでそのまま話を進めた。
「だったら、単純な言葉でもいいじゃねーか。それで相手に気持ちが伝わるならな」
「ガイ・・・・・・・ありがとう。そうだよな・・・・」
ようやく体の力を抜いて、ルークはガイを見る。
「ガイ、俺・・・・・・ガイが好きだ」
「え・・・?」
「ガイが好きなんだ。すごく、ガイが好きだ」
ルークはギュッとガイの手をつかんだ。
ずっとそばにいてくれて、何度も助けられた。
でも、そうじゃなくて。だからじゃなくて。
「ガイが好きだ」
なんで好きとか、どれくらい好きとかは言葉にできないけれど。
「・・・そうか」
ガイは優しく微笑んでルークの額に口付けをした。
「ありがとう」
そう言われてルークは自分の額に思わず手を持っていき呆然としたのち、ガイをこちらがわに引き寄せた。
「俺、本気だからな」
そう呟くとルークはガイの唇に自分の唇を強く重ねた。
乱暴だけど、それは自分の想いを必死伝えようとしてるもので。
・・・大丈夫。お前の想いはちゃんと伝わってる。
ガイは目を伏せて幼馴染の想いを受けとめた。


他の誰にも伝わらなくていい。
でも、どうして自分の想いを伝えたい人がいる。



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