seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■復讐

聞こえてくるのは規則正しい寝息。自分の鼓動の音。
部屋には2人きり、あまりに無防備な寝顔を眺めながらすっと手を伸ばす。
ゆっくりと起こさないように首を指でなぞってみる。
ここを斬ればきっとこの人は死ぬだろう。
故郷を滅ぼす元凶となった男を父親に持つこの人を。
一瞬にして家族を失った。
だから同じ悲しみを与えてやろうと思った。それが復讐と悲しみの連鎖であってもかまわない。
その為ならどんなことだってしようと思った。
殺してしては意味が無い。一瞬の痛みを感じて意識を途絶えてしまうなんて許さない。
もっと、生きて、ずっと、悲しみと絶望を。
同じ苦しみを。
あんなに怨んでいたのに。
全てを奪った元凶を。
元凶の子供に同じ苦しみを与えることで復讐は完了するのに。
・・・月日と考えの変化が復讐心を薄れさせてたことは事実だ。
それだけで、十分だったのだが。
「・・・・・・国王が得体の知れない人間をそばに置くものじゃありませんよ」
恨みを打ち消したのはその言葉か、表情か。
「無防備にもほどがあります・・・・・」
優しく包み込んだのは体か心か。
「何で・・・」
長い月日で変わっていった心。
出会ってすぐに変わってしまった心。
この言葉の魔力はどんな譜術よりも強力で避けることができない。
復讐心を生きるエネルギーにしていた自分はどこへ消えてしまったのだろう。
故郷消滅の真実を知った。
本当に怨むべき相手を知った。
復讐心は消えていた。
もし、この人じゃなかったら。
もし、この人の言葉に魔力が無かったら。
もし、この人がいい加減な人間だったら。
周りの人間を刃物で切り裂くことによって全てから解放され、また新たなものを背負って生きる道があったかもしれない。
この人じゃなかったら。
・・・・この人でなければ・・・・
「復讐、か・・・」
結局何がしたかったのか。
復讐することで何が得られるのか。
それをして自分を守るために命を散らした故郷の人間が喜ぶのか。
ただ一時の感情に流されて飲みこまれて必死に生きようとした。
あの感情が一時のものであったのと同じように、この感情もいつか消えてなくなるのだろう。
それまで・・・この感情に飲み込まれているのも悪くは無い・・・そう思えるのはこの人だから。
「貴方が貴方じゃなかったら今すぐ殺すところですけどね・・・」
小声で呟くと腕を引かれて布団の中に戻される。
包まれるように抱かれると、魔力の篭った声で囁かれる。
「ガイラルディア・・・お前が望むなら復讐を果たせば良い。俺には拒む資格が無い」
「・・・・・・・・・・・・・わかってて、言ってるでしょう陛下」
そんな望みはとっくに捨てていると。
泣きたくなる。悲しいわけでも嬉しいわけでもなく。
「ガイラルディア・・・俺を殺すか・・・?」
「そうですね・・・殺したくなってから考えます」
「そうか・・・楽しみにしてるぞ」
「・・・・もうわけわかりませんよ・・・」
この人じゃなかったら。
この人じゃなかったら。
・・・この人で、良かった。



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