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■芍薬牡丹

まだまだ昼と言える時間帯。少し早いが今日は宿に泊まることになった。
日差しは暖かく、風も心地よい穏やかな午後。
過ごしやすい気候に、思わず心が安らぐ。ここが瘴気に包まれる可能性があると思うとそんなこと感じている場合ではない、そう思いながらも。
宿までくると、ガイは足を止めた。
花壇に植えられた珍しい花。少し大きめの、シンプルなその花は何故か目をひいた。
色は原色に近い赤。鮮やかで大胆ながらに全然嫌味を感じない存在感。
単純に、キレイだと思った。
ただ少し、我侭だけど優しい、あの人が頭を過る。
・・・似てる、かな。そう思うと心の中で苦笑した。
「ガーイ。何をしているのです?皆もう中に入ってしまわれましたよ?」
「え?ああ・・・悪い」
気がつけばその場に一人残っていたガイに、ジェイドは声をかけた。
先ほどまでガイが眺めていた場所に視線を落とすとほぉ、と納得したように頷く。
「花ですか」
「ああ・・・キレイだなと思ってさ」
再びその花を見て、ガイはやわらかく笑った。
まるで大切なものを見守るかのような優しい笑顔。
ジェイドはその様子に目を丸くしているようで、それに気がついたガイは疑問に思い声をかけた。
「旦那?どうかしたのか・・・?」
声をかけられたジェイドは目頭を押さえつつ首を横に振った。
「いえいえ・・・貴方がこの花にそんな表情するとは・・・」
「なんだよ。俺が花を愛でちゃいけないのか?」
「そうではなくてですね・・・知ってるものかと思ってましたが・・・そうですか」
一人納得してジェイドは宿の中へ入ろうと扉に手をかけた。
しかしそう納得されても何を納得しているのかわからないガイは慌てて引き止める。
「ちょっと待て。何がそうですかなんだよ」
あー・・・としばらくジェイドは考える。きっと言ったときと言わないときの面白さを天秤にかけているに違いない。
ガイはその天秤自体が面白くなく、完全に不機嫌顔を作り上げていた。
そんなガイはお構いなしに結論を出したジェイドは対照的な笑顔を作り上げて言う。
「まあ、気にしないでください」
「気になるっつーの!」
「いやぁ・・・愛されてますねぇ・・・」
ジェイドは扉を半分開けると動きを止める。そしてそのまま振り返ると、意味ありげに笑う。
「ガイ、知っていますか?」
「は?何をだよ」
突然ぶつけられた質問に、ガイは困惑する。
ジェイドはその反応すらも楽しんで、続きを言う。
「その花の名前ですよ」
「いや、見たことない花だったから・・・名前までは・・・」
「ピオニーです」
「は?」
言い終わる前にその単語を言われてガイの思考が停止する。
理解できないでいるガイを眺めて小さく笑うと、ジェイドは改めて言う。
「その花はピオニーという珍しい花ですね。私はてっきり知ってるものかと思ってましたよ」
「は・・・・・え・・・・・・・??」
ジェイドと花を交互に見ながらガイは驚きを隠せずに動揺する。
次第に理解し始めると、比例して顔が赤くなっていく。
別に、名前が同じなだけであってあの人とこの花は関係無いのに。
それでも、さっきこの花を見たときにあの人に似ていると思ったのは事実で。
「ピオニーはキレイ、ですか」
「う、あ、そ、それは・・・・・」
「ラブラブですねぇ」
「ち、ちっが・・・っ!」
「お気の済むままピオニーを見つめててかまいませんよー」
にやにやと楽しそうに笑いながら、ジェイドはガイを残して宿の中へと消えた。
残されたガイは深いため息をつき肩を落とす。
片手で顔を覆うとぼやいた。
「・・・こんな顔じゃ合流できないだろーが・・・」
指の隙間から花壇を見る。
『ガイラルディア』。今にもあの声で名前を呼んできそうな錯覚さえ起こってきた。
・・・なんの病気だ、これは。
ガイは再びため息をついた。
あの人は今どうしているだろうか。仕事はまじめにこなしているだろうか。部屋は片付けているだろうか・・・・いや、それはないか。
グランコクマにつながる空を眺め、自分があの場所へ戻るために今やれることをする。
改めてそう思うと、ガイは仲間達に合流した。



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