seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■束縛

小さく聞こえたノックの音。
普段なら寝ていてもおかしくはない時間帯に屋敷の人間が部屋に訪れてまで何の用だろうか。
ガイは自室の扉を開けると、予想の選択肢に入っていない人物が目に飛び込んできた。
・・・ついでに胸に飛びついてきた。
「ガイラルディアー。会いたかったぞー」
「へ、陛下!?」
ガイは自分に飛びついてきた陛下を見た後にピオニーをここまでつれてきた見張りを見た。
運悪く来客に気付き、玄関の扉を開けてしまった見張りは降参したようにため息をつくとゆっくり大きく首を振った。
恐らく特に用件も言わず自分のところへの案内でも頼まれたのだろう。心中を察し、ガイはアイコンタクトでもう下がるように伝えると、見張りは軽く頭を下げて部屋を出た。
残ったのは部屋の主と場違いな来客。
「・・・陛下、今何時だと思ってるんですか・・・」
「会いたいと思うのに時間なんて関係ないだろー」
「・・・陛下、酔ってますね」
いつも以上におかしな発言とかすかに掠めた酒の匂いに、ガイはため息をつく。
とりあえずいつまでも入り口付近に立っているわけにもいかず、抱きついて離れないピオニーを無理矢理歩かせる。
一国の王がこんなところにいるのも問題があるが、城に帰れと命令するのも問題がある。
予想するに飲み相手はジェイドだろう。どうして責任を持って部屋まで送ってやらなかったのか・・・まあここで愚痴をこぼしていても仕方がない。
「・・・ガイラルディア・・・・・・」
「はい?なんでしょう陛下」
この体勢では椅子にも座れないのでとりあえずベッドに腰を下ろす。
「ここはお前の屋敷か・・・?」
「・・・・・・・陛下、もしかして半分寝てますか。この場所を与えてくださったのは貴方でしょう」
「そうではなく・・・お前はここでいいのか?」
単語単語はなんてことはないありふれたものの組み合わせ。
ただザワリと体の芯から凍りつくように突き刺さる。
涌き出た感情は不安か寂しさか。
主語のないその言葉を理解するのは簡単だった。しかし答えを口に出すのは気が引けた。
「・・・言ってる意味がわかりませんが・・・・・・」
声が震えたかもしれない。心拍数の変化に気付かれただろうか。
ピオニーは言葉を付け足して再び問い掛けた。
「確かにお前の生まれ故郷はマルクトだ。だがそのマルクトはお前の故郷を奪った。それに身を置いていた時間もキムラスカの方が長いだろう?だから・・・」
「陛下!!」
自分で発した声の大きさに驚く。何故、怒鳴る必要があるのだ。
この人は、自分のことを考えてくれて・・・でも・・・・
「・・・・・・陛下。俺は、自ら望んでこの場にいます・・・」
この場、とは。
生まれ故郷・・・違う。自分はマルクトにいるわけではないのだ。
違うのだ・・・
「・・・そう、か・・・・なら、いい・・・・・・・」
「陛下・・・?」
耳を澄ますと寝息が聞こえてくる。満足のいく回答だったのだろうか。
抱きつかれたまま眠られてしまったので身動きがとれない。ガイは小さくため息をついてピオニーを見た。
急にそんな疑問を思いついたのか、親友に何か言われたのか知らないが。
「俺は・・・自ら望んでこの場に・・・・・・貴方の、元にいるんですよ・・・」
そんなこと、わかっていると思っていたのに。
いや、わかっていたのかもしれない。ただ自信が無かったのかもしれない。
それでも・・・そんなこと言われたくは無かった。
なんだかんだで、この人は優し過ぎるのだ。自分を思ってくれているのは嬉しい。だが・・・
「・・・・・・贅沢な悩みだな・・・」
ガイは苦笑した。
自分の感情なんて考えず、ただこの人に問答無用でそばに置いていて欲しい。
この人が自分を束縛するのならばまったく苦にならない。
そばに、置いて欲しい。
・・・執着しているのは、どっちの方なのやら。
「陛下、これじゃあ俺眠れません」
起こす気などまったくない小声で呟く。
「・・・責任、とってくださいよ」
天井を仰いでガイは微笑んだ。
何の責任なのか、は心に秘めたままで。



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