seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■接触

今日の使用人は妙に機嫌が良かった。
にこにこと鼻歌まじりに部屋を片付けている。その表情はとてもとても可愛いものなのだが、ピオニーとしては不満だった。
「・・・ガイラルディア」
「はい、なんでしょう陛下」
床に放置されていた本を抱えながら、ガイはにっこりと笑顔で答えた。
・・・今だかつて名前を呼んだだけでこんな表情をしたことがあっただろうか。いや、ない。
本来喜ぶべきものなのだろうか。しかしピオニーは不機嫌顔を悪化させた。
「随分と機嫌が良いようだが、何かあったか」
「そうでしょうか?いつも通りですけど」
いつもお前はそんな笑顔を振り撒いているのか。それは危険だ。いつ誰に奪われるかわからない。
・・・冗談はさておき、これはいつも通りとは程遠いものだというくらいピオニーは十分に承知していた。
「俺に隠し事か?ガイラルディア」
自分にまったく関係無いことでガイが上機嫌になっていることがとても気に食わないピオニーは、さらにその原因を隠す様をみてますます不機嫌になっていく。
さすがのガイもそのオーラを察したのか、少し困った表情をした。
「いえ・・・別に隠し事ってほど大それたものでは・・・!」
真実を語らないガイにピオニーは無言で攻撃をしかける。
ガイの腕を押さえ、床に押し倒す。持っていた本が音を立ててまた床へと散らかった。
「どうせ話さないなら言い訳も話せない状態にしてやろうか」
完全に機嫌を損ねている。
ガイはこのままでは本当に実行しかねないピオニーをみて小さくため息をついた。
「・・・・・・・・・あのですね、陛下。貴方が何を想像してるのか知りませんが・・・」
「何も想像していない。したくもない」
「・・・そうですか。なら予想を裏切ることも無くて幸いですが、今日新しい音機関を入手したってだけですよ」
「・・・音機関?」
ピオニーの押さえる力が緩まり、ガイは床から上半身を起こすと、嬉々としてピオニーの疑問に答え始めた。
「はいそうです。最新のものですよ。今までにも同じような機能をもったものは普通に存在していたんですけど、それよりも大きさが一回りも二回りも小さくなってるんです。軽量化にも成功していますしこれは特殊な・・・・・・」
正直話の内容は半分も聞いていないが、ピオニーは呆然とガイを見つめていた。
音機関が絡んだときの変貌振りはジェイドから聞いていた。譜業と音機関が街の至る所にあるこの街を嬉しそうに観察していたこともあった。
しかしここまで変貌するとは。
幸せの絶頂にでもいるかのような笑顔で長々と音機関について語るガイに小さくため息をついた。
本当にその笑顔は普段しっかりしている彼からは想像もつかないものであったし、とても可愛らしいものなのだが。
・・・なのだが。
「・・・・・ですからこの仕組みは今後の・・・・・んうっ・・・」
ピオニーは自分の唇でガイの唇を塞ぎ、話を終わらせた。
「話はわかったガイラルディア。つまりお前は俺と関係の無いことでそんな表情してるってことだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・あの、陛下」
未だに不機嫌まっしぐらのピオニーにガイは一つの可能性を脳裏に浮かばせながら訊ねる。
「なんだ」
「相手は物、ですけど」
「それがどうした」
「・・・物相手にまで嫉妬するんですか貴方は」
そういえば前に海を眺めているときに海に嫉妬するとか言ってたような気がする。
・・・冗談だと思っていたが、この様子をみていると本気なのかもしれない。
ピオニーはガイを自分の方に抱き寄せる。自己主張するように。
「悪いか」
「・・・・・・いえ・・・」
行き過ぎた嫉妬も愛されている証拠なのだ、そう解釈してしまった自分にガイは赤面する。
幸か不幸か抱き寄せられた状態なのでピオニーには見られていない。
「しかし困ったな。今日はお前をこの部屋から出したくなくなったぞ」
「陛下。申し訳ありませんが今日だけは本気で帰らせていただきます」
ピオニーの言葉にガイは両腕でピオニーから離れ、真顔で答える。
真顔、というよりは本気、というかなんというか。敵を睨みつけているかのような形相。
ピオニーは本当に音機関はこいつの表情を変えさせるな・・・と軽く感心する。
「安心しろ。別にお前の好きなものを取り上げたりはしない」
なだめるように頭を撫でる。ガイの表情も通常のものへと戻る。
「・・・本当ですか」
「そもそも音機関を取り上げるなど無謀な話だろ。軽くグランコクマは消滅するぞ」
「・・・・・それもそうですね」
ガイはようやく信用したようで、落ちた本を拾い上げると作業に戻る。
そんなガイの様子を眺めながらピオニーは考える。
グランコクマに来てそれなりに長い間共にしていたと思っていたのだが、まだまだ知らない表情があるようだ。
たぶん、知らなくていい表情もあるかもしれない。
それでも全てを受けとめることで過去に全てを奪った罪滅ぼしになるだろうか。
・・・いや。
「そりゃ関係ねーな・・・」
「?何かいいました?」
「なんでもねーよ」
全てを受けとめたいと思うのに過去の出来事は関係無い。
ただ純粋に惹かれているだけなのだ。
「ガイラルディア」
「はい?」
作業をしているガイの後から抱きしめる。
「愛してるぞ」
「・・・陛下、もしかして帰るの遅らせようと邪魔してますか・・・?」
「そうかもな」
「・・・・陛下・・・・・」
返答が無かったのは少し寂しいが、否定がなかったのはきっと向こうもそう思ってくれているからだととってもいいだろう。
思考を巡らせていると、小さく相手の声が耳に入った。
「・・・・・・音機関は・・・」
「?」
「音機関は、会話もできないし、俺に触れてきません。ですから・・・」
まだ嫉妬してると思われたのだろうか。ピオニーはガイの言葉に微笑んだ。
「そうかガイラルディア。お前は俺に触れられていたいのか」
「そ、そこまで言ってないでしょう!」
「似たようなものだ」
もう一度強く抱きしめた。
ずっと微笑みかけてもらうよりも、ずっと抱きしめていた方がいい。
もっともっと触れていたほうがいい。
それが、特権であるのだから。



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