seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
off

■sleep


「失礼します。陛下・・・・」
ジェイドがピオニーの私室に入った途端、その部屋の主が人差し指を口の前で立てて「しーっ!」と黙らせてきた。
疑問に思ってるジェイドの前で後を振りかえり、何かを確認すると安堵の息を漏らし、ジェイドに小声で問い詰めた。
「何しに来た。大した用も無いのに来るな。帰れ」
「仕事でもなければこんなところ来ませんよ」
こんなところとはなんだ、と反論するピオニーを無視してジェイドはそのピオニーの後を覗きやった。
「これはこれは・・・」
ジェイドは感心するような声を上げた。
いつものように物が散乱している部屋に、ぶうさぎに囲まれて熟睡している使用人。
よくもまあぶうさぎの鳴き声が途切れることなく聞こえる部屋でこうも深い眠りができるものだ・・・
ピオニーは観察を続けるジェイドに少しムッとしてそれを遮るように身を乗り出して言う。
「俺の特権をあんまりじろじろと見るな」
「特権、ですか。確かに彼がここまで熟睡してるのもめずらしい」
「ああ・・・信頼されてる証だろう?」
2人は改めて熟睡しているガイを見る。
声のボリュームを落としているとはいえ、こんなに会話をしていても目を覚ます気配すらない。
長い間旅を共にしていたジェイドだが、こんなに無防備に眠るガイなんて見たことが無い。
ふと視線を隣に移すと、にこにこと優しそうに微笑む親友の姿。
「・・・嬉しそうですねぇ」
「嬉しいに決まってるだろ。お前あれだぞ?こいつにとっての俺だぞ?それがこんな可愛い寝顔晒してるんだぞ?」
「あー、やっぱりそこは気にしてるんですね」
「まあ・・・どうしても頭を過るわな・・・」
ピオニーはしゃがみ、ガイの髪の毛をいじり始める。
複雑な事情が絡み合って生まれたホド戦争。
その核部分にいたのが自分・・・の父親ではあるが。
全てを無にした原因にもっとも近い存在であるとどうしても思ってしまう。
「罪悪感から彼と一緒にいるのなら早急に別れた方がいいと思いますよ」
ジェイドはいつもの口調よりも冷たく、真面目な声で言い放つ。
しかしそれをすぐに否定した。
「そんなつまらない感情で人を愛せるかよ」
ただ、どうしても忘れることはできない過去があるだけ。
だけどそれが元となって今の関係が成り立っているわけでは決してない。
例えば彼の立場である人物が彼で無かったならば恐らく今のような関係にはならなかった。
彼が、彼だから好きなのだ。
それを軸にして、過去が覆い被さってる状態なのだ。
ジェイドは小さくため息をつくと、持っていた封筒を部屋の片隅に置いた。
「提出期限までには時間がありますが、なるべく早い返答をお願いしますよ」
「なんだ、今日出さなくてもいいのか?」
「ええ。今日のところはお邪魔なようなので失礼しますよ」
「?そうか・・・」
意味がありげに微笑むジェイドに疑問を持ったが、さっき帰れと言ったのは自分なのでそのまま部屋を出るジェイドを見送った。
「・・・おかしなやつだな・・・・・・・」
「厭味なやつの間違いでしょう・・・」
独り言のつもりで呟いた言葉に返答が返ってきて、ピオニーは目を丸くする。
「ガイラルディア・・・起きてたのか」
「ついさっきですが・・・・・・・・・あの、陛下・・・」
「どうした?」
気にしないで下さい、と言うべきなのだろうか。そんなに単純な問題ではない気がする。
気にしないでと言われた所で気にしないほど単純な人間でもないだろう。
それに、優しい人だから。
「いえ・・・すみません、仕事中に寝てしまうとは・・・」
「ああ、気にするな。俺はお前の寝顔が見れて大満足だぞ。いつでも寝てくれ」
ピオニーはガイを抱き寄せるとその額に口付けを落とした。
ガイは苦笑する。
「そうですね・・・仕事中以外でしたら考えます」
「じゃあ今日は泊まっていけ」
「は・・・?」
「泊まっていけ」
1回目よりもゆっくりした口調で強く言われる。
・・・これは、命令なのだと。
「・・・はい。了解しました」
ガイは柔らかく微笑んだ。

例え消えない過去が真実でも、この想いにも偽りは存在しないかぎり。



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