seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■記念日


ガイがピオニーの私室に入ると、何やらメイド達が慌しそうに動いていた。
辺りを見渡すとまるで子供がやるようなクリスマスパーティーを彷彿させる飾り付けがちりばめられている。
忙しそうだったので少しためらったが、ガイはメイド1人に声をかけた。
「ずいぶんバタバタしてるけど、何かあるんですか?」
声をかけられたメイドは、そういえばガイラルディア様は初めてでしたね、と笑顔を作った。
「今日はジェイド様の誕生日なんですよ」
「・・・・・・ジェイドの?」
「ええ。・・・あ、カーティス大佐ではなくて、ジェイド様です。カーティス大佐の誕生日はもう少し先ですから」
メイドの言い直しにより、頭に浮かんでいたジェイドがぶうさぎへと変わった。
なるほど。この飾り付けはクリスマスではなく誕生日パーティーか。
「へぇー。なるほどねぇ。それにしても何でジェイドの・・・カーティス大佐の誕生日まで把握してるんです?」
「陛下はお祝い事が大好きなので誕生日は自然と覚えてしまうんです。あ、そういえばガイラルディア様の誕生日は聞いていませんでしたね・・・」
「え・・・ああ・・・」
「ガイラルディアー」
会話の途中で背後にずっしり体重をかけるようにして抱きつかれた。
これも日常茶飯事だ、と慣れてしまった自分が少し悲しい。
抱きつかれたままピオニーの方を首だけ回して確認する。
「陛下・・・おはようございます」
「俺に挨拶もしないで立ち話かガイラルディア」
「いえそれは・・・」
「あ、私これで失礼しますね」
慌てたようにメイドは小走りで走り去っていった。
それを見届けたガイは小さくため息をつく。
「・・・言っておきますが、声をかけたのは俺の方ですよ。メイドいじめはやめてください」
「わかってる。全部見てた。別にいじめてない」
その声は明らかに不機嫌である。
まいったな・・・ガイは抱きつかれたままの状態で考える。
「陛下・・・俺なら気にしていません・・・」
「お前はメイドを庇うのか」
「そうではなく本当に・・・俺は自分の誕生日をより大切に思えるようになりました」
忘れもしない5歳の誕生日。
聞こえるのは悲鳴。見えるのは鮮やかな血の色。金属がぶつかり合う音。
・・・ホド戦争。
「確かに、昔は誕生日が来ると・・・どうしても、思い出してしまうんで誕生日が嫌いでした。でも今は・・・」
この世に生を受けた日に、死に直面した。
それでも生きて、生きて、ここにいる。
「生きていることを一番実感できる大切な日です」
微笑んだ、つもりだったが少しぎこちなかったかもしれない。
確かにそれは本心なのだが、誕生日に人から祝われるのは好きじゃない。
あの日、死んでしまった家族や使用人・・・ホドの住人を思い出すと祝われていることが窮屈になる。
「・・・・・・・・・すまなかった」
黙って聞いていたピオニーは小さく謝った。
「別に今更どうなるってわけでもないでしょう・・・それに、誕生日だけが祝いの日ってわけでもないですから」
ガイは苦笑した。
ピオニーが祝い事でよく騒いでいるのは知っていた。しかし直接そのことで会話した覚えが無い。
それは少なからず考慮があったに違いない。
ガイはピオニーの腕をよけると、向かい合うように体の向きを変えた。
「例えば・・・何かの記念日とか」
「記念日?・・・そうだな・・・・・・初めて会った日とかか?」
「そうですね。じゃあそれで」
「・・・お前投げやりだな・・・」
「そうでしょうか?」
一日一日、起こる出来事はまったく異なる。
それぞれが大切で・・・言ってみれば全てが何かしらの記念日になる。
「うーん・・・ま、いいか。俺はお前が可愛ければそれでいい」
どこか腑に落ちないようなピオニーだったが、いつもの笑顔を作ると無理矢理な結論を出した。
ガイは苦笑する。
「俺のどこが可愛いんですか・・・・・・」
「全てだ。お前はいつでも可愛くあればいい」
「努力します」
心にもない返事をして、ガイはピオニーを見た。
ここにきて誕生日の話題が嫌だったのは、別に自分がどうこうという理由ではない。
ただ、この話になるとこの人から笑顔が消えるだろうと思った。
「俺は・・・」
「ん?」
「・・・・・・・なんでもありません。それよりも今日初めて知ったからジェイドへのプレゼントなんて用意してませんよ?」
「ああ、別に気にするな。そーゆーのは気持ちだ、気持ち」
いつもの口調、いつもの表情。

俺は、貴方が笑顔でいてくれればそれでいい。



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