seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
off

■銀世界


既に解散済み。グランコクマにて客室を用意され、それぞれ個人行動をとっていた。
と、いっても既に夜なので早い人間は寝ていてもおかしくないだろう。
だがまだ寝る気になれないガイは、散歩でもしようと部屋の扉をあけた。
・・・しかしすぐに閉めた・・・いや、閉まる前にそれは阻止された。
「どこかへいくんじゃないのかガイラルディア」
「いえいえ、ただちょっと扉があけたくなっただけですよ」
あけようとする力と閉めようとする力がつりあって扉の動きに変化はない。
何故一国の王が普段戦闘要員の自分と力がつりあうんだ・・・ガイが来客といえば来客の・・・ピオニーを見ながら思った。
「そんな物好きなやつがどこにいる。いいからその手を離せ」
これ以上無駄な体力を使うこともないだろうとガイはゆっくりと力を緩めて扉から手を離した。それを確認するとピオニーも手を離す。
「・・・それで?皇帝陛下ともあろうお方が私に何の用でしょうか」
散歩は完全にあきらめて、ガイはピオニーに付き合うことにした。
・・・いや、もう付き合わざるを得ないというか。
「ああ、ちょっと散歩に付き合ってもらおうかと思ってな」
「散歩?」
思いがけず相手の口からその言葉が出てきて思わずおうむ返しをする。
しかし言葉をよくよく考えていくうちにガイは眉間に皺を寄せていった。
「・・・自分の立場をお考えで発言してますか?」
「散歩なんて誰だってするだろう。それによくあいつの執務室にも足を運んでるしな」
どこにも悪いところは無い、と当然のような態度で言いきるからこちらはため息しか出ない。
「はいはい了解しました。陛下のご命令には逆らえませんよ」
ガイは頭をかきながらしぶしぶ了承する。
そのしぶしぶ了承する態度は軽く無視して、ピオニーは晴れ晴れした笑顔で了承を喜んだ。
「そうかそうか。それじゃあ早速いこうか」
ピオニーはガイの手をつかむとスタスタと歩き出す。
しかしその方向は正面出入り口とは真逆である。
「(さすがに正面から堂々と出て行けるわけ無いよな・・・)」
今まで考えたことが無かったが、ふとガイは思った。
たしかに見張りがいる場所をたやすく通るのは難しい。
口封じって手もあるが、そう毎度毎度うまくいくわけもないし、頻繁に城を抜け出すのには向かないだろう。
ならば答えは一つである。
ガイの想像通り、来たことも無いような場所へどんどん引っ張られていく。
「よーし、誰もいないな」
ピオニーは鍵を取り出すと扉を開ける。
たどり着いた先は、使われている気配の無い倉庫だった。
「・・・こんなところに倉庫があるとは・・・・・・」
城の内部はよく雑用で走り回っているが、こんな場所があるなんて知らなかった。
辺りを見まわしてみると、無造作に放置されている木箱には埃がかぶっており、天井には蜘蛛の巣が見える。
掃除されている気配がないあたり、城にいる人間でもあまり知られていない場所なのだろうか。
「ああ。ここは2代前の皇帝時代に使われていたらしいが、先代の頃には鍵のありかもわからなくなってな。別に重要なものが保管されているわけでもないから放置されてた・・・いわば開かずの間だ」
「・・・・・思いっきり開いてるじゃないですか」
しかもありかのわからない鍵を使って。
「いやー開かずの間って聞くとなんだか開けてみたくなってなー。ジェイドに鍵を作らせた。なかなかスペアの鍵を作るのも難しいって扉だったもんで何かあるんじゃないかと期待してたんだがな」
「それで何かあったんですか?」
「とんでもないもんがあったぞ」
置いてある木箱の一部を動かし、それによって出現したスイッチを押す。
するとどう見ても壁である部分が横にスライドし、窓すらない倉庫に外の光りをとりいれた。
・・・隠し扉である。
「・・・・・・なるほど。これが貴方のお忍び用出入り口ですか・・・」
たしかにこれなら見つかる可能性は低い。
開かずの間という条件で大方の人間は諦める上に荷物に隠されたスイッチ。隠し扉。
なんとも遊びで城を抜け出すのはもったいないほどの仕掛けである。
「誰にも言うなよ。さて、行くか」
また手を引っ張られ、ガイは城の外に出た。
裏道を通り街に出る。街の出口付近までくるとピオニーは立ち止まった。
「ガイラルディア。お前アルビオールを操縦できたよな」
「は?ええ、まあノエルほどの腕はありませんが・・・・・・・・・・あの・・・陛下、まさかとは思いますが・・・・・・・・・」
嫌な予感に駆られ、ガイは恐る恐る尋ねるが、ピオニーはあっさり一刀両断する。
「街を出るぞ」
「陛下!!何を考えているんですか!城を出るだけでも非常識なのに何の理由も無く街を離れるなんてことは・・・・・」
「ガイラルディア」
ピオニーはガイの言葉を遮ると、とびっきりの笑顔を作って続ける。
「俺の命令に逆らうのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
そう言われてしまっては逆らえるわけがないのだ。
ガイが黙ったのを確認するとピオニーは街の外にあるアルビオールへとガイの腕を引き歩く。
「時間が限られてるからなぁ。急いで安全運転で頼むぞ」
「無茶言わないで下さい・・・それで、行き先は?」
完全に諦めたガイは操縦席に座るとピオニーに尋ねた。
ピオニーはフッと笑みを作る。
「ケテルブルクだ」



辺りを見まわしても地面を見ても空を見ても、目に入ってくる真っ白な雪。
さすがに街の中に入っては大騒ぎになるので近くにアルビオールを着陸させ、甲板に立つ。
「いやー、雪だなー」
「雪ですね・・・」
とても上機嫌な声ととても生気の無い声。
「なんだガイラルディア元気が無いな」
「そりゃもう・・・・皇帝陛下を誘拐した罪にでもなったらこれから先どうなるのかと・・・」
「・・・・すまないな」
「へ?」
いきなり声のトーンを変えてきたピオニーに思わず顔を上げる。
そんなガイを見てピオニーは苦笑した。
「いや、どうしても雪が見たかったんだよ・・・・・・お前と」
「俺と・・・ですか?どうしてまた・・・」
「さあなあ・・・やっぱ雪には思い入れがあるし・・・お前と雪を見たことがなかったし・・・・正直はっきりした理由は無い」
空から不規則に舞い降りる雪を見上げながら語る。
雪は音も立てずに地面に到達し、積みあがっていく。
ガイも雪を見つめながら呟く。
「そう・・・ですね。貴方が好きなものを貴方と見ることができて・・・嬉しいです」
きっとこの真っ白い雪原でたくさんの経験を重ねて、今のこの人が構成されている。
もしもこの雪がなければ今とまったく同じようには成長しなかっただろう。
「そうか。俺の好きなものを大好きな俺と見ることができて嬉しいか」
「・・・そこまで言ってません」
「言わないだけで思っているんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思ってません」
頬が赤くなるのをこらえきれなかった顔をピオニーからそらして、ガイは小さく言った。
それに満足したのかピオニーはにこにこしながらガイを眺めた後にもう一度空を仰いだ。
大好きなものを大好きな人と見ることができたことに感謝をしながら。



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