seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
off

■想像


めずらしく真剣な顔で本を見ている主が気になってガイはブウサギをブラッシングする手を止める。
先ほどからページをめくる音だけを聞いて不思議に思っていた。ただ単に読書、という音ではない。
めくったかと思ったらすぐに次のページを開く。そのページを長い間みていたかと思うと前のページに戻る。
一体何の本を読んでいるんだ。一度気になるとどうも知りたくなる。
ちらりとピオニーが読んでいる本をみると、ブックカバーなどはついておらず、題名を盗み見ることができた。
ただ、その本があまりに意外なものだったので、こっそりと盗み見て仕事に戻ろうという計画を無駄にしてしまう。
「・・・料理・・・?」
「ん?ああ。料理の本だ」
・・・思わず声にしてしまい、ピオニーは視線をガイに移した。
ああしまった。せっかく静かに仕事が出来ていたのに。
何の妨害も無く仕事が出来ることなど稀で、しかもその妨害は仕事を命じた本人がしてくるから処置の仕様が無い。
その稀な機会を自ら潰してしまったことにガイは心の中で盛大なため息をついた。
しかしそれでもやはり疑問は残っているわけで、どうもその本が自分の主とイコールで結びつかないのだ。
結びつかないとはいえ、他の可能性がいまいち沸いてこないので、ガイはそれを口にする。
「料理・・・するんですか?」
「お前がな」
「は?」
ピオニーは持っていた本を閉じ、ガイに差し出した。
差し出されたのでガイはとっさに受けとってしまう。
そして本当に料理の本なのか確認するためにパラパラと本をめくってみた。たしかに料理のレシピがかかれていた。
ピオニーは小さくため息をつくと説明をはじめる。
「お前の料理の腕が良いってことをジェイドからきいてな。何か作ってもらおうと思ったんだが・・・」
ガイはパタンと本を閉じ、最後まで聞かずとも大体察することが出来た。
「・・・・・・・何を作らせるか迷った挙句決められなかった、と?」
「そーゆーことだ。もうあれだ。お前が決めてくれ」
ひらひらと手を振り、ピオニーはガイに言う。
軽い口調だが、ガイにとってこれは命令である。
「・・・わかりました」
ブラッシングは後回しだな・・・そう思いながらガイはピオニーの部屋を後にした。
カチャン。扉を閉めてガイは考える。
「(しかし・・・何を作ろうか・・・)」
こう中途半端な時間に主食級のものを作るのもどうだろう。そもそも食事の準備を頼まれたわけではない。通常通りシェフが食事を用意するだろう。
なら作る料理はおやつ系に限られてくる。
厨房に立ったガイは預かった本の中で短時間で作れるようなものを選ぶ。この後も仕事があるからあまり時間をかけている場合ではない。
作るものを決めると、さっさとガイは作り始めた。
厨房での料理なんて久しぶりだ。キムラスカで以来だろう。
やはり料理をする場所だけあって料理がしやすい。野宿のときとは大違いだ。
ボールの中身を混ぜ、調味料に手を伸ばす。
・・・・・・・・この料理に毒を混ぜれば、陛下は死ぬだろう。
「・・・っ!」
自分の考えに驚いたガイは手にした調味料のビンを落としてしまった。
ガシャンッ!割れる音と共に中身が飛び散る。
しかしそれを片付けようと考える通常の思考ではなくなっていた。
毒なんて混ぜてどうする。陛下を殺してどうする。
復讐・・・?
ガイは立ち尽くしていた。目は開いているが見たものを頭で認識する機能が停止したように何も見えなかった。いや、見える見えないの感覚すら奪われる。辺りは静かだ。
復讐する気なんてない。そのためにここにいるんじゃない。
じゃあ、何の為にここにいる?
誰を殺せば復讐が終わる?
何をすれば満足できる?
復讐なんて考えたくない。そんなことする気はない。
ガイは音が聞こえそうなほど大きく首を横に振った。しかし一度流れ込んだ黒い液体は心を侵食していく。
違う。殺そうなんて思ってない。
じゃあ、なんで・・・
なんで俺は・・・
「ガイラルディア!」
誰かに手を捕まれてビクリと停止していた視覚と聴覚が正常に動き始めた。
「陛下・・・何故ここに・・・」
やっぱり殺意は沸いてこない。この人を殺そうなんて思えない。
思えない・・・はず。
「様子を見に来たんだが・・・どうかしたのか?呼びかけても全然反応がなかったぞ」
「いえ・・・何も・・・」
心配そうな顔で声をかけられる。今まで考えていたことに罪悪感を感じ、ガイは目をそらした。
しかしこんな挙動不審な態度では何でもないわけがないことくらい誰にだってわかる。
「・・・・・・・・人っつーのはあっけないものでな・・・」
ピオニーは置いてあった包丁を手に取った。
「こんな鉄の塊でも・・・」
ゆっくりと、それを自分の首元に持っていく。
包丁を自ら突き付けるピオニーにガイは青ざめる。
「陛下・・・?何を・・・」
「このまま突き刺してみようかと」
「な・・・」
「・・・・・・・・・まあ、冗談だが」
こうすればお前の復讐は終わるだろう?そう続けるつもりだったが、その台詞はカットした。
あまりにガイの反応が見ていて辛かったから。
ピオニーが包丁を離したのを見届けると、ガイは力が抜けてその場に膝をつく。
「・・・脅かさないで・・・ください」
力無く呟いた。
どうしたものだろうとピオニーはガイを見つめていたが、行動を起こす前にさらに声をかけられた。
「・・・・・・・・すみません・・・」
「?何がだ」
「・・・・・・俺は・・・貴方を・・・・・・・・・」
「なあガイラルディア。お前ブウサギがしゃべれたら、なんて考えたことあるか?」
いつもの口調でしゃべりはじめたピオニーに、ガイは口を閉じる。
返事を貰わないままピオニーは続けた。
「きっとジェイドは自分の名前に文句をいうだろうなー。あんなやつと同じ名前なんてとか。サフィールは・・・突拍子の無いこと言い出したりな」
黙って言葉を聞きつづける。
「・・・変だよな。ありえないことがリアルに想像できるんだぜ?人間の脳ってのは良く出来てる。良いことも・・・・・悪いことも、想像できる」
その言葉に思わず顔をあげた。
そこには優しい笑顔があった。
ピオニーはガイを見て苦笑した。
「なんつーツラしてんだ、お前は」
乱暴に頭を撫でられる。
「もしも、とか例えば、とか・・・そんなの誰だって考えることだと思わないか?」
心を読まれたかのような解答。
「自分の気持ちに反していても、な」
荒れ狂う波がすぅっと穏やかになっていくように感じた。
殺したいわけがない。
だって、こんなに・・・
「はい・・・そうですね・・・」
「すまんなーいきなりヘンな話して。ま、テキトーに流してくれ」
「いえ・・・・・・・・・ありがとうございます」
笑みを作ってお礼を言うと、何倍もの笑顔を作って返してくれた。


復讐する気なんてない。
だって、こんなに、惹かれているのだから。



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