seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■境界線


「ガイラルディア」
このニュアンスは何か雑用を頼まれるときだ。
ガイはブウサギの散歩に出かけようと棚から出したリールを手にしたまま、思いっきり嫌そうな顔をして呼ばれた方角に首だけ回す。
「何でしょうかピオニー陛下」
笑顔で立っていたピオニーはガイの表情を見ると、わざとらしく傷付いた表情をしてわざとらしいため息をつく。
・・・こういう所は親友そっくりだな、なんて口に出したら今度は本当に嫌な顔をしそうだが。
「主の呼びかけに随分な態度だなぁガイラルディア」
「さぁ、なんのことだかさっぱり。では私はこれで・・・」
「ちょっと待て。お前に買い物を頼みたい」
どさくさに紛れて逃げようとしたが、やはり無理だった。そして悪い予感は当たる。
ピオニーがペラペラと右手に持っている小さな紙には何行にも渡って何かが書いてある。恐らくは買出しリストなのだろう。しかも私物の。
別に主の命が嫌なわけではない。無視するつもりもない。ただ。
「陛下。私にはこれからブウサギの散歩があります」
「知っている。まあそれはそれ、これはこれ」
無茶苦茶だ。
いつもこうである。わざと仕事を重複させて困らせる。
文句をいいながらもこなしてしまう自分も悪いのか・・・ガイは小さくため息をついて右手を出した。
「・・・行ってきます」
「おぉ、悪いな」
嬉々とメモをガイに渡すと、ピオニーは手を振ってガイを見送った。
「正確に全部買ってこいよー!」
「・・・出来る限りは」
ガイは軽くお辞儀をしてその場を立ち去った。
「なんだかんだで働き者だよなぁあいつ」
「よくもまあ愛想尽かれませんねぇ」
完全に独り言のつもりで呟いた言葉に、聞きなれた声の返答が返ってきた。
振り返ると、見なれた顔。
「別に嫌がらせをしているわけでもないしな」
「第三者の目はそれを嫌がらせやいじめの類にとりますよ」
相手が挨拶しないので、部屋に入ってきたジェイドも会話する。
これはあくまで自然なやりとりである。長年付き合ってきた中で作られたものだろうか。
本気なのか冗談なのかスレスレの位置でする言葉のキャッチボールは続く。
「第三者がどう見ようと関係ないな」
「そうですねぇ・・・言葉を間違えました。貴方以外の目には嫌がらせにうつります」
にこり。ジェイドは意味がありげな笑みを浮かべる。
その言葉と表情にピオニーは眉を寄せる。
「・・・・・・ガイラルディアもそう思っているのか」
「さあ?私はガイではないのでね」
ジェイドは肩をすくめる。ピオニーは腕を組むと小さなため息をつき真剣な表情を作った。
「ジェイド」
「なんですか?」
「俺は本気だぞ」
何がですか?微笑で聞き返すのは簡単だ。だが帰ってくる言葉を知っている。
その言葉が本気であることもその表情と声のトーン、全てから感じられる。
キャッチボールのボールが変化した。
すっ、と顔から笑顔を消して考える。
答えを。
いや・・・投げ方を。
「困りましたねぇ・・・」
ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。
はじめは好奇心だった。彼の言動に疑問を抱いて調べ始める。
その好奇心が変化したのはいつのことだったか。
・・・ただ、変化していたのは確実であることは言える。
その結論が出たところでジェイドは再び顔に微笑をのせた。
「私も・・・本気です」
満足のいくボールだったのか、ピオニーはふっ、と笑うと声のトーンをいつものものに戻した。
「そうか。それは良かった」
「・・・良かった、ですか。厄介だとは思いませんか?」
言われてみればそうだな、とピオニーは笑う。
「ま、選ぶのはあいつだからなー」
「どちらも選ばれない場合も想定してますか?」
「・・・・・・そんな考え方もできなくもないな」
「やれやれ・・・」
たとえどんな結果が出ようとも、受けとめることが出来るであろう。
それが彼にとっての幸せだったなら。



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