seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■過去の景色


キムラスカにいたころはその町のつくりのせいか、自ら望まなければ目に入ることもなかったが、ここではこうやって城の中で雑用をこなして走りまわっていても、ふと窓の外をみればそこにある。
「海、か・・・」
ガイは足をとめて視線を海にうつしたまま窓のほうに足を進めた。
小さいころはよく海を眺めていた。
特に何を考えるでもなくぼんやりと外を見れば太陽の光を反射する青い海が遠くに見えた。
屋敷を出て海に出向くと広がる青い海とそこに浮かぶ美しい島。
故郷の思い出の背景に海がある。
意識していなかったが、海は身近にあるべきものだったのと、再び海のそばで生活してみてそう思った。
自分で思っているよりも、海が好きなようだ。
「ガイラルディア」
呼ばれて振り返ろうとしたとき、ガシッと体重をかけられるように肩に手をまわされた。
そして顔を覗き込まれて言われる。
「俺の城で堂々とサボりとはいい度胸だな」
「も、申し訳ありません・・・」
あせって軽く頭を下げようとするが方に腕を回されているのでっ軽く頭が動いた程度だった。
そんなガイの様子を面白そうに眺めていたピオニーは、密着していた体を離し、腕組みをすると窓の外を見た。
「ま、俺もひとのこといえないわけだが」
「・・・そういえばそうですね・・・こんなところにいてもいいんですか?」
悪びれた様子も無いピオニーを横目でにながら、ガイは言う。
ピオニーはひらひらと片手を振り、あっさりと流す。
「まあいいじゃないか。それより何を見ていたんだ?」
「良くないですよ・・・一国の王がそれじゃあ・・・」
「何を見てたんだ?」
華麗な笑顔でガイの文句を遮り、ピオニーはもう一度ガイに問いかけた。
こうなってはもうおとなしく戻ってくれることはないだろう。ガイは見られないように小さなため息をつく。
「何を見てた・・・と言われましても・・・」
「今日は天気がいいから海が綺麗だなー」
「・・・わかっててききましたね」
太陽光を反射し、キラキラと不規則に光る海を眺めながらピオニーが言うと、ガイは全て察せられていると悟り、呆れ声を出す。
そんなガイに視線を向け、ピオニーは小さく笑った。
「お前は嫉妬するほど普段から海を見つめているぞ」
「誰が誰に嫉妬するんですか」
半眼でたずねてくるガイにピオニーは抱きついた。
「俺が海にだろーがー。わからないのかお前はー」
抵抗することなく抱かれたままガイは、もう突然のスキンスップに慣れた様子で対処する。
「わかりませんよそんな・・・それに・・・俺はそんなに海を見ていますか・・・?」
「見てるぞ。気がつくと見ているぞ。自然に見ているぞ」
体勢を変えることなく会話を続ける。口が肩に埋もれてしゃべりにくい。
「そう・・・ですか」
過去に捕らえられてるとは思わない。捕らえられたくない。
だが、無意識に過去を思い出すのは何かを求めているのだろうか。
今更何を求めているというのだ。欲しいのは未来だ。
そして見つめるべきなのは今である。
「・・・・・・・・・ガイラルディア?」
声をかけられハッとすると、ピオニーは既にガイを解放し、首をかしげていた。
ガイは慌てて笑顔を作るが、苦笑にしかならず。
「す、すみません・・・少し考え事を・・・」
「俺と話しているときに考え事をする暇があるのかお前は」
腕組みをしながら目を細めてピオニーは言う。
ガイは焦りながら何とかなだめようとピオニーから視線を外し言葉を探す。
「い、いえ・・・そんなことはない・・・のですが・・・ね・・・その・・・」
「・・・・・・・すまなかったな」
「は?」
あまりにまじめな口調で呟かれ、ガイは視線をピオニーに向ける。
一瞬見えたのは、完全に笑みの消えた悲痛な面持ち。
しかし見間違いで済まされるほど一瞬である。すぐにピオニーの表情はいつものおどけたものに戻る。ガイの肩に手を乗せると言った。口調もいつもの明るいものだ。
「あー、いや。お前には今日やってもらいたいことがたくさんあるんだ。早く今やってた仕事を終らせろよ」
「はあ・・・で、では失礼します」
疑問を残しつつもガイは軽くお辞儀をしてその場を立ち去った。
そのガイを手を振り、笑顔で見送り、完全に見えなくなるとピオニーはすぅっと笑顔を消した。
「故郷を・・・消しちまったんだもんなぁ・・・」
復習を誓ってファブレ家を恨んでいたと聞く。
ならば、もし初めからマルクトがホドを消滅させようとした事実を知っていたらなら。
「闇討ちでもされてたか・・・まあ、今のような関係ではなかっただろうな」
ピオニーは海を見た。
ホドから見える海はどんな姿を見せていたのだろう。
ここから見える海とは違ったのだろうか。
・・・今はもう、見ることができない景色。
彼の心の中に埋まっている景色を。
少し、覗き見たくなった。



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