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■誕生日
「ハッピーバースディ」
無駄に良い発音で俺は祝福された。たった一人の男子生徒に。
別に俺に友達がいないわけでも、親にすら誕生日を祝われないわけではない。
俺の誕生日は過ぎたと言うには遅すぎる、先というにはまだまだが必要なのだ。
つまりは誕生日を祝われる理由は何も無い。自慢じゃないが、誕生日以外だとしても祝われる要素が何処にも見つからない。
こいつに俺の正しい誕生日を教えてやるのもめんどうだ。会話するのも億劫だ。俺は精一杯の『何言ってるんだコイツ』という表情をつくってやつに答えることにした。
「今日は、僕の中に貴方が生まれた日なんです」
俺は間違っていたようだ。精一杯の『何言ってるんだコイツ』顔を作ったつもりだが、まだまだ未完成だったようで、さらなる『何言ってるんだコイツ』顔を作ることに成功してしまった。
毒電波だ。電波が猛スピードで空間を占拠する。
電波から遠ざかるように俺は二歩ほど後退りをした。これにはさすがにこいつの笑顔も苦笑にかわる。
「大げさすぎましたね。今日は僕が初めて貴方を知った日なんです」
俺は太陽が梅雨の存在を忘れて照りつける理不尽な日に、そんな太陽レベルに鬱陶しい笑顔に出会った覚えは無いぞ。時期外れの謎の転校生さんよ。
「僕が貴方を知った日と、貴方に初めてお会いした日には多少の時差がありますから」
その多少の時間、俺は古泉を知らないが、古泉は俺を知っていたというわけか。
なぜだろう。なぜだかとても気色悪い。よくある話なのにこいつであることがどうも許せない。
そんな表情をつくってみたが軽くスルーして古泉は続けた。
「貴方は僕を救ってくれました」
「超能力者を救えるほどの力を持つ一般人きいたこともない」
「・・・・救ってくれました」
わけありを隠す笑顔でそう言われてしまってはこっちも何も言えないだろう。何があったのか深く聞くほど俺はお前に興味無い・・・・そーゆーことにしといてやる。
断じてお前に気を使ったわけではに。そんな心配り俺にはできない。できないからな。
「・・・すみません」
あやまられるようなことをされた覚えはないが?
「では・・・ありがとうございます。僕の中に、貴方がうまれてくれたことに感謝します」
「・・・まったく・・・俺の誕生日は一体いくつあるんだよ」
「まあ・・・大まかにいくと10日ほどあるでしょうか」
おいおい、俺は一体何回うまれてるんだ。何人いるんだ。もしくは何回死んだ?
「正確に言えば365日。毎日僕の中で新しい貴方が誕生しています」
芸能人もびっくりなハンサムスマイルで気色悪いことをさらりと言うな。忌々しい。
しかし・・・毎日誕生日とは斬新かもしれないな・・・そうなると誕生日のありがたみなんてもんは消え失せるのだろうか。
誕生日プレゼントなんて貰えなくなったりしてな。そうなると逆に・・・
「・・・好きです」
「は?何が」
「・・・なんでもありません。それでは失礼します。呼びとめてしまって申し訳ありませんでした」
そういって古泉はその場を離れた。
構想の途中に話しかけられると状況判断力もおちるってもんだ。俺に非は無い。主語を言わなかったお前が悪いんだぞ。
顔を赤くしてから俺がそう思ったのは完全に古泉の姿がきえてからの事だった。
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