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■補充
それはそれはめずらしい光景だった。
たまたまそこにあれば、手に取る。しかしすぐに飽きる。この流れが普段のものである。
なので自分の部屋で、数冊の本が積んである横に座って読書などとは・・・出会ってこれまで見たことが無い。
どんな心境の変化だろうか。
邪魔をしてはいけないかと、軽くノックをしてあけたドアを戻し、部屋を後にしようとすると部屋の主に声をかけられる。
「あ?もう帰るのか?何もしてねーじゃん」
気づいていたのか。
シグルドは結局部屋の中に入り、ドアを閉めめがら声をかける。
「読書とはめずらしいな」
「んー・・・まあ、そうかもな」
シグルドはハーヴェイの横まで歩み寄ると、その積み上げていた本の種類を見る。
フィクション、ノンフィクションの入り混じったそれに、共通点があるとは思えない。
何かの調べ物の線を推理していたシグルドは首を傾げる。
本当にただの読書なのだろうか。
それにしても幅広すぎる。大昔の歴史から誰でもできる料理の本。天体に関するものや絵本のようなものまで。
・・・手当たり次第に図書館からもってきたとしか思えなかった。
「ハーヴェイ・・・その本は誰のものだ?」
「ああ、これ?誰っつーか、図書館でテキトーに目に入ったのを持ってきただけだ」
やっぱりか。
しかしそうなるとますますわからない。何故いきなり読書など。
「っだー!やっぱ駄目だ。飽きる!!」
シグルドの思考を遮るかのように、ハーヴェイは読んでいた本を投げ出した。
いつも通りの反応を見せるハーヴェイに、シグルドは小さく笑った。
いきなり読書にめざめたわけではないようだ。
「そもそも何故本なんて読み始めたんだ?」
「ああ・・・そりゃお前がよく本を読んでるから」
「・・・・・・・・・俺が?」
今に始まったことではないが、突拍子も無いことをいう。
まさか自分が絡んでいるとは思わなかったのでシグルドはきょとん顔になる。
言った本人も、どこか言いにくそうに頭をかきながら「うーん」と言葉を選んでいるようだ。
「いや・・・なんつーか・・・人を知るにはまず自分からって言うだろ?」
「・・・いわない」
シグルドは眉間を押さえて短く言った。
どこでそんな言葉を聞いたのか、それとも聞き間違えたのか勝手に作ったのか・・・
しかも先ほどハーヴェイが投げ出した本はことわざ辞典のようなものであった。
・・・見間違えたのだろうか・・・?
「まあ何でもいいけどよ・・・お前と同じようなことすれば、少しはお前のことわかるかと思ってよ・・・いや、なんだ・・・?よりいっそう・・・???」
言葉を選んだはいいが、文章化まで出来なかったようだ。
つまり、ハーヴェイは普段シグルドがやっていることを自分もすることで相手に新しい発見があるかもしれないと考えた・・・わけではあったが結果はこれである。
理解したところで、シグルドは小さく笑った。
「そうか・・・それは嬉しいが、やはり人には向き不向きがあるだろう?」
先ほどハーヴェイが投げ出した本を拾い上げ、本を広げながら続ける。
「お前が知識をつけたいが本を読むのが苦手だったら俺が教えてやる。それでいいんじゃないか?」
「まあ・・・そりゃいいんだが・・・・・・俺はお前に・・・」
「俺の何が知りたい?」
「な・・・!?」
笑顔でそうストレートに言われてハーヴェイは頬を赤くする。
そんなハーヴェイを見てシグルドはクスクスと笑う。
「お前は可愛いな」
「お、同い年の男に可愛いなんて言われて喜ぶかよ・・・って頭を撫でるな!!」
怒鳴るハーヴェイだが、赤い顔では迫力も無く、シグルドはハーヴェイの頭を子供をなだめるかのように撫でた。
「本心を言ったまでだ。それに、直接聞いたほうが回りくどくなくて良いと思わないか?」
確かに正論なのだが・・・
ハーヴェイは頬を染めたまま口を尖らせる。
「なんつーか・・・何を知りたいのかがわからない・・・」
「俺はお前のできるだけ全てが知りたい」
ハーヴェイを自分の方に引き寄せ、後ろから抱きしめるとシグルドは耳元で呟いた。
叫んで反発しようとしたハーヴェイだが、その声にからかいの情やふざけている色がなかったので、ハーヴェイはそっぽを向きながらボソボソと呟いた。
「俺だって・・・お前の全てが知りたい」
その言葉にシグルドは笑顔になる。
「じゃあお互いに教えていけば良い」
シグルドはハーヴェイの髪に口付けを落とした。
「ん・・・そうだな」
気になったらその都度きけばいい。
相手が苦手なものを見つけたらそこを補っていけばいい。
2人にしかできないことを、2人でしていけばいい。
2人でいる時の、目標。
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