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■紅葉の季節
「なあトリスタン。お前紅葉を見に行く気は無いか?」
「・・・無くても連れて行かれる気がするのは気のせいでしょうか・・・」
「それもそうだな!」
「・・・・・・」
それはよく晴れた日の午後、仕事を終えたトリスタンとジェレミーは街中を歩きながら会話していた。
風が冷たく感じるようになった秋の空気を感じて、ジェレミーはふとトリスタンに話したのだった。
「しかしこの辺りの木は針葉樹林で紅葉のかけらもありませんよ?」
街中に生えている木々を見渡しながらトリスタンはジェレミーに言う。
ジェレミーも顔を上げて確認すると「うーん」と眉間に皺を寄せた。
「そうなんだよな・・・オベルで紅葉が見れる場所なんてなさそうだ」
「あまり遠出も出来ませんしね・・・」
「そんなのてきとーに休みもらえばいいじゃねーかよー」
不満そうなに唇を尖らせて言ったジェレミーは天を仰いだ。
「こーんなに晴れてるんだぜー?休んだっていいじゃねーか」
「よくないですよ・・・それにしてもどうしてそんなに紅葉がみたいんです?」
そういう類に疎そうだと思っていたトリスタンは、先ほどから疑問に思っていたことをジェレミーにぶつける。
少し首を傾げて視線をトリスタンに向けると、ジェレミーは答えた。
「だって、紅葉みながらおいしいもの食べるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・それはもしかしなくても花見では・・・」
「同じようなもんじゃねーか」
いけしゃあしゃあというジェレミーにトリスタンは肩を落とした。
一応、人生の先輩なのにこの人は・・・
脱力でトリスタンは足を止めた。
そんなトリスタンなんて目にも入ってないジェレミーはワクワクとした雰囲気で話を進めながら歩く。
「やっぱもみじ見ながらまんじゅうがいいよな!あ、そうだ。トラヴィスも誘わないとだよな!!遺跡にいこうぜトリスタン・・・・ん?どうかしたのかトリスタン」
ようやくトリスタンが足を止めたことに気がついたジェレミーは立ち止まって振りかえった。
トリスタンはもう、ジェレミーのペースから抜け出せないだろうと小さくため息をつき、力なく返事をした。
「いえ・・・なんでも・・・ゴホッ」
「?あっそ。じゃあいこうぜー」
大して気にもとめないジェレミーの後をトリスタンはとぼとぼと歩くのだった。
街からはずれて細い道に入り、遺跡の入り口が見えてくるとジェレミーはあからさまに嫌そうな顔をする。
「・・・番人いないぞ」
「・・・・・まあ・・・いつものことといえばいつものことですが・・・」
「ったく、あいつはほんとに・・・」
2人は言いながら、鞘に収まっていた剣を引きぬく。
「なんで仕事終わったのにモンスター退治なんてしなきゃなんだよ!!」
「・・・特訓・・・だと思えばなんとか・・・・・・いきますか」
剣を構えた2人は、遺跡に突入した。
慣れたモンスターを慣れたように薙ぎ払い、迷いやすい複雑な道を迷うことなく突き進み、2人は遺跡の奥へと向かう。
「しかしほんと・・・こんだけモンスターがいりゃ、あいつがサボっても支障ないよな・・・」
「そうですね・・・迷いやすい道といい、十分すぎると思います・・・」
「・・・・・・これで奥にトラヴィスいなかったらまたこの道を戻るのか俺たちは・・・」
億劫そうな顔をするジェレミーに、それなら・・・とトリスタンはジェレミーを見た。
「こんなこともあろうかと・・・すりぬけの札を・・・」
「うっわ、すげーなお前・・・備え有れば憂いなしってやつか?」
「・・・少し違うような・・・・・と、もうすぐ出口ですね」
ただ知っている言葉を使っただけのようなジェレミーの発言を軽く流して、トリスタンは出口の光を確認した。
モンスターを斬りながら、おぉとジェレミーも確認する。
「やーっとついたかー」
「毎回ここを1人で通り抜けているトラヴィスは・・・なんとも・・・」
「・・・・・・いわれてみればそうだよな・・・あいつ、剣士でもないのに・・・」
そんな謎の男がいるであろう外に出た瞬間、2人は別のものが目に入り、立ち止まった。
ジェレミーはそれを見上げて、ぽかんと口をあける。
「・・・・・おいおい」
「これはまた・・・」
赤や黄色に色づく木の葉が、緩やかな風に舞う秋の風景。
・・・大きな大樹が紅葉を迎えていた。
2人がその光景に気をとられている間に、来客に気がついたトラヴィスはまんじゅうを食べていた手を止め、膝の上にいた猫を静かに下ろすと立ちあがり2人に近づいた。
「・・・・・・来てたのか。どうかしたのか?」
声をかけられたジェレミーは、はっと現実世界に意識を戻した。
「おぉいトラヴィス!なんでお前こんな隠しスポットのこと黙ってたんだよ!!」
「・・・?・・・・いつもきてるじゃないか・・・」
ゆっさゆっさと体を揺らされながらトラヴィスは言葉足らずなジェレミーの発言に疑問符を浮かべる。
トリスタンがその足りない言葉を補った。
「いえ・・・実は先ほど紅葉を見に行こうと話してまして・・・まさかオベルに紅葉が見れる場所があるとは・・・」
トリスタンは落ち葉に視線をやり、トラヴィスに視線を戻した。
その言葉にトラヴィスはようやくジェレミーの言葉を理解すると、揺さぶるジェレミーの手を払って答えた。
「俺だってあの木が紅葉するなんて知ったのは数日前だ・・・それに、お前が紅葉に興味があるなんて思わなかった」
「ああ・・・それは同意見です」
2人の視線がジェレミーに向けられる。
ジェレミーは不満そうな顔で2人を交互に見ながら言った。
「な、なんだよ!どんなイメージだよ俺!!」
「・・・・・・・どうと言われましても・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・マーベラス」
「わけわかんねぇよ!!もうどうでもいいからさっさとまんじゅうよこせよトラヴィス!!」
面白くなさそうに叫ぶジェレミーにトラヴィスは眉をひそめた。
「何故お前にまんじゅうをあげなきゃならないんだ」
「紅葉にはまんじゅうなんだよ!!!」
「・・・・・・???」
わけのわからないことを当たり前のようにいるジェレミーの言葉をもちろん理解できずに、トラヴィスはトリスタンを見やるが、トリスタンはため息交じりに首を横に振るだけだった。
ジェレミーに視線を戻すと、トラヴィスも小さなため息をついてジェレミーのペースに合わせることにした。
「・・・1人で食べる予定だったからそんなに数はないぞ」
「お前の一人前ならじゅうぶんだろ」
「・・・・・・そうか?」
「それは・・・そう思います」
「そうなのか・・・」
トリスタンにまで言われて、トラヴィスは黙った。
一段落ついたと判断したジェレミーは、元気良く腕を振り上げた。
「よっしゃー!紅葉だ!花見だ!!」
「・・・花見・・・?」
トラヴィスはトリスタンを見たが、やはりトリスタンは諦めたように首を横に振るだけだった。
「・・・大変なんだな」
「もう・・・慣れましたけどね」
「?何の話だよ」
2人はしばらくジェレミーを見つめた後、同時に深いため息をついた。
「な、なんなんだよ!!」
「いえ・・・」
「別に・・・・」
「気になるだろー!」
結局紅葉した木々の前で、いつもと変わらないやり取りをしているうちに時は流れていく。
結局はやっぱり、紅葉を見に行くなんて遊ぶための口実にすぎないのだった。
・・・そのくらいが、らしくていいのかもしれない。
トリスタンは思ったが、その中の一員に自分も含まれていることに気がつき苦笑した。
穏やかな午後の話。
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